【5】ワクチンの本人同意ができない
感染後の重症化を予防する最大の切り札となるのがワクチンだ。うるま市の新型コロナワクチン接種推進室室長はこう語る。
「うるま記念病院はワクチン接種できる市内20か所の医療機関のひとつでした。同病院からは患者のためのワクチンの要請があり、市から6月末までに494回分、7月末までに522回分を配布していました」
だが、ワクチンが配布されても接種は進まなかった。クラスターが発生した7月時点で、病院職員の9割が2回の接種を済ませていたものの、患者の接種は1割、それもほとんど1回のみの接種にとどまったという。
「ワクチンは本人に同意する能力があれば本人に確認して接種しますが、同意が難しければ家族の同意を得て行ないます。しかし職員の接種を済ませたのが6月末で、7月に入って患者さんの接種を進めようと動いていた段階で、タイミングが悪くクラスターが発生してしまったのが実情です。再三指摘されていますが、患者さんへのワクチン接種が遅れて1割にしか届かなかったことが、クラスターになった大きな原因だったと思っており、しっかり検証して次に繋げていくことが大事だと思っています」(前出・同病院の広報担当者)
【6】他の施設と連携している
同病院の近隣には、系列の特別養護老人ホームがある。同病院はその関連医療機関になっており、デイサービスやリハビリ、基礎疾患の治療などで利用者が病院とホームを行き来することがあった。
こうした連携は全国の施設でみられるが、落とし穴もあると前出の室井氏が指摘する。
「同病院のように地方では老人ホームと病院をグループ経営している法人が主流で、相互の行き来によって手厚いケアができるメリットがあります。ただし人の往来があるため感染拡大期はリスクが高くなる。これまで病院と関連施設の往来のリスクはあまり着目されなかったが、今回の件をきっかけに感染対策を見直すべきでしょう」
本誌・週刊ポストは同病院で7月以降に亡くなった複数の入院患者の親族を取材したが、一様に「コロナで亡くなったかはわからない」と言葉を濁した。コロナ禍もあって、入院先の状況を把握できていなかったと語る遺族もいた。
「いま、高齢者医療従事者や介護職員からよく聞くのは、入院した家族への見舞いや連絡をまったくしていない家族が多いということです。コロナ禍で面会は制限されていますが、感染対策という面でも注意点がないかチェックしておくことを勧めます。なるべく本人や施設関係者とは密に連絡を取り、どのような状況でいるのか確認しておくことが重要です」(室井氏)
クラスターの悲劇から家族を守るためにも、改めてリスクを確認しておきたい。
※週刊ポスト2021年9月10日号