【1】入居者の「自由度」が高い
「一般論としても、感染対策において高齢者病院や施設特有の難しさがあります」
そう指摘するのは、感染症に詳しい元外務省医務官で関西福祉大学教授の勝田吉彰氏だ。
「高齢者施設では、患者が病院スタッフの指示を守らないケースがとても多い。特に認知症の患者は、マスク着用を求めても嫌がって拒否する、『ここから動かないでください』と伝えても移動してしまう、誰かに抱きつくような様々な接触も起きてしまいます」(勝田氏)
うるま記念病院の病棟は2階と3階にあり、計4つのエリアに分かれていた。
「2階にはおおむねADL(日常生活動作)が全介助の方々が集中していて、3階にはADLが良好な方がいます。
1月のクラスターの時は、2階の寝たきりの患者さんが多い一つの病棟エリアのみで感染者が出て他には広がらなかった。ところが7月に発生したクラスターで最初の感染者となったのは、ADLが良好でほぼ介助なしで動ける3階の患者さんでした。この方が病棟を自由に歩き回ったことで、感染が広がったところはあると考えられます」(前出・同病院の広報担当者)
同病院では、自分で動ける患者であれば、他のフロアにも自由に行き来することができるという。その自由度の高さが、結果的には巨大クラスターを招いてしまった。
面会については一般の病院と同様に昨年から制限をしていたが、必要性が認められる場合は実施していたという。
「主治医が患者さんの余命と急変リスクを考慮し、1家族2人まで10~15分の面会を許可していました。患者さんを移動させることが難しいため、面会は6人部屋に直接入ってもらう形でした」(同前)
一般に病院内で感染者が出た場合は、清潔地域と危険地域などを分ける「ゾーニング」や、感染者や濃厚接触者を1か所に集める「コホーティング」が求められる。
だが、その対応も難しかった可能性がある。
「患者を一方的に同じ場所に集めると、そりの合わない者同士で喧嘩などのトラブルが生じやすい。そうした危惧があるため、感染制御の理論を用いた迅速な対応が難しくなります」(前出・勝田氏)