なんとも涙ぐましい努力、というべきか執念というべきか。もちろん、こうした喫煙所難民は日本中のありとあらゆるところで散見される。
東京都墨田区内の繁華街に立つ高層ビルの一階に設置された喫煙所には、日中、澤田さんのようなサラリーマンが何十人、何百人と訪れ、大いに喫煙に励んでいるという。同ビルの管理会社関係者の証言。
「駅前の喫煙スペースがコロナを理由に撤去され、みんながここに集まり始め、多い日だと何百人もの人が、入れ替わり立ち替わりやってくるんです。夕方になると、近くの闇営業居酒屋帰りの客と思われる人たちが、缶ビール片手にやってくる。喫煙所でタバコを吸いながら酒まで飲み、女性喫煙者をナンパする、なんてこともありましたね」(ビル管理会社関係者)
そもそも、部外者をビルに入れるべきではない、という意見もあろうが、飲食店やオフィス、行政機関も入る巨大な複合ビルであり、だれが関係者なのか判断することは難しい。事実上、外からの喫煙者の侵入を防ぐ手段がないのだという。
「喫煙所の撤去も考えられていたようですが、結局ポイ捨てなどが増えるだけ。閉鎖された駅前の喫煙所では、その周りでタバコを吸う人がたくさんいて、吸い殻だらけでしょう。結局、撤去の話は流れたそうです」(ビル管理会社関係者)
喫煙所といえば、かつてコンビニの前には必ず、そして当たり前のように灰皿が設置されていたが、やはりコロナ禍以降、ほとんどの店舗から灰皿が撤去された。するとどういうことが起きているのか。今も店の前に灰皿を設置しているという、千葉県内のコンビニ経営・原口孝さん(仮名・50代)が、呆れたような口調で説明する。
「客じゃない喫煙者が途切れませんよ、朝から晩まで。コロナ感染が拡大してからは、近所のお父さんが、サンダルに寝巻き姿でやってきて、100円のコーヒー買って喫煙されてます。コロナで家でタバコが吸えない、と嘆くお父さんたちです」(原口さん)
多くの喫煙所難民たちは、吸いたい気持ちを我慢して、タバコが吸える機会があれば我先にと喫煙所に殺到する。喫煙者にとって「我慢する」ことも、今では慣れっこになっているのかもしれないが、その喫煙者が目上の人だったり、逆らえない立場の人、ということになると、苦労するのはその周囲だ。都内でイベント会社を運営する野田雅彦さん(仮名・40代)は、こうした目上の喫煙者の対応に四苦八苦している。