前述の“感動ポルノ”のパターンに当てはまるかというと、そうではない。それぞれの選手の障害や大事な家族の死、仲間の支えなどに触れる面があっても、そこで感動的に盛り上げようという意図は見られず、さらりと伝えた。五輪競技とは違う「豆知識」を伝えながら、アスリートたちのパフォーマンスをしっかり伝えようという姿勢を貫いていた。
3年前に事故で車イス生活になっても4か月後にアイドル生活を再開した仮面女子の猪狩ともかさん(29)をスタジオに招いていた。パラリンピックの応援大使を務めている人だが、パラスポーツの話題は他の出演者たちがそれぞれ印象に残ったアスリートについて語った後で、彼女に車イスラグビーについて説明させるなど「パラスポーツという競技を特別視しない姿勢」の自然な感じで良かった。
ところが番組の後半で、女子トライアスロンPTS5(機能障害)の谷真海選手についてのVTRは少し“感動”を意識する要素が入っていた。谷選手は2013年のIOC総会で東京五輪パラリンピック招致の英語スピーチをトップで行ったほか、開会式で日本選手団の旗手も務めた人物で番組もたびたび取り上げてきた。
早稲田大学でチアリーダーとして活躍した時(当時の画像あり)にがん(骨肉腫)を発症して翌年に右足膝下を切断。番組では18年前、2003年に彼女が義足をつけ始めた頃に密着取材していた。その頃に練習する彼女が慣れない義足にうまく走れず転倒してしまう映像。さらに初めての国内競技の試合でも転倒してしまって、悔し涙を見せている映像もある。そこに音楽が入る。
この日、朝から始まったトライアスロン競技でスイムは5位で折り返したが、今大会はふだん挑戦してきたクラスよりも障害の軽いクラスでの挑戦になったこともあり、バイクやランで次第に順位を落として10人中10位に終わった。
その映像を見せながら「それでも最後、いつもの笑顔を忘れずに完走した谷選手にSNS上で『笑顔でのフィニッシュにジーンと来ました』など称賛の声が続々と上がっているということです」とナレーションが入ってコーナーが終わった。もちろん典型的な“感動ポルノ”と評価されるわけではないが、そうした感動要素もかなり意識された映像で、出演者たちも「感動」「がんばる」「努力は裏切らない」などの言葉を連発した。
日本人はどうしても“感動”が好きだ。それ自体が悪いことではない。ただ、これまでの“感動ポルノ”では障害者であるというだけで「大変さ」「悲劇」を背負わせてしまうような色メガネで見てしまい、その人自身の奮闘を正当に評価しないで無理なかたちで感動の対象にしてしまうステレオタイプをつくってきた。