ライフ

美とグロとユーモアが交錯 まさに“平山夢明ワールド”全開の短編集

平山夢明氏が新作を語る

平山夢明氏が新作を語る

【著者インタビュー】平山夢明氏/『八月のくず 平山夢明短編集』/光文社/1760円

 できれば1作ずつ、心と時間の余裕をもって読みたい、贅沢で手強い物語集だ。

「こないだも俺の本を1冊読むのに4年かかったっていう人がいたけど、本って安いもんじゃないからさ。読んでもらったのに、何も残らない方がかえって申し訳ないし、例えば天丼とカツ丼とハンバーグって一度に食わないじゃない(笑)」

 それほど1篇1篇の精度が高く、満腹度も高い本書『八月のくず』は、初出年次も媒体も幅広い計10篇を集めた最新短編集だ。

 妊娠して邪魔になった女を山中に連れ出し、道にこびりつくまで轢殺した男が遭遇するある恐怖の体験(表題作)や、〈天才脚本家・笠原和夫に捧ぐ〉と献辞のある『仁義なき戦い』へのオマージュ作品「幻画の女」等、美とグロとが融け合い、独特のユーモアすら醸すあたりは、まさに平山夢明ワールド。が、特に発表年次の近い作品ほど著者自身の嘆息や、そこから一歩でも踏み出そうとする意志のようなものが宿り、令和3年秋のこのコロナ下に本書が編まれた意味すら感じさせるのだ。

「このあいださぁ、コロンじゃってさ。病院はどこも満杯で薬一つくれないし、ようやく1軒紹介されたのが皮膚科でね。『人には自然治癒力というものがある。自分を信じて安静にね』って、ホントに何もしないで放り出されたのよ。酷い話だと思わない?(笑)でも幸い重症化はしなくて済んだし、『実はコロナに罹患しまして』なんて言うと重いじゃない? そこは『実はコロンじゃってね』くらいが丁度いいんです」

 何が丁度いいかと言えば、「照れ」具合だ。そもそも「作家各々の含羞が現実や今との切り結び方に出る」と氏は言い、人間の狂気や愚かさに肉薄しながらホラーにすら人情味を宿すのが、人気の一因といっていい。

「ほら、昔よく教室に絵や習字が貼り出されたでしょ。『早春』とか『希望』とか。そうすると俺は何かせずにはいられなくて、母の日の絵には必ず鼻毛を書くとかね。あ、自分のじゃなくて友達の絵にだけど(笑)。要するに照れ臭いんです。イイ話をイイ話のまま書いたりするのは。ただ最近はちょっと考え方が変わって、東日本大震災の前は自分の欲求を昇華させたいだけだったのが、今は自分の本を読んだ人の変化や影響まで考えるようにはなりました」

 なかでも注目は昨年11月初出の『いつか聴こえなくなる唄』だろう。主人公は〈ノックス〉という、動きは〈図鑑で見た地球にかつて居たゴリラというのにそっくり〉だが、体は3倍大きく体毛がない家畜の管理を任された親子〈O・ドク〉(オールド・ドク)と〈B・ドク(ベイビー・ドク)〉。ここ〈惑星コス〉に農地や希少金属の鉱山を所有する〈農園主〉の下でノックスたちを農作業や採掘に従事させる仕事は楽ではないが、父は息子に事あれば言った。〈俺たち人間は全て、此の地球からやってきた〉〈地球人だけが、この広大な宇宙を征した種族なんだ。だからおまえも貧しくても誇りと自信を失ってはだめだ〉

関連記事

トピックス

麻薬取締法違反で逮捕された俳優の清水尋也容疑者(26)
「同棲していたのは小柄な彼女」大麻所持容疑の清水尋也容疑者“家賃15万円自宅アパート”緊迫のガサ当日「『ブーッ!』早朝、大きなクラクションが鳴った」《大家が証言》
NEWSポストセブン
当時の水原とのスタバでの交流について語ったボウヤー
「大谷翔平の名前で日本酒を売りたいんだ、どうかな」26億円を詐取した違法胴元・ボウヤーが明かす、当時の水原一平に迫っていた“大谷マネーへの触手”
NEWSポストセブン
麻薬取締法違反で逮捕された俳優の清水尋也容疑者(26)
《同居女性も容疑を認める》清水尋也容疑者(26)Hip-hopに支えられた「私生活」、関係者が語る“仕事と切り離したプライベートの顔”【大麻所持の疑いで逮捕】
NEWSポストセブン
麻薬取締法違反で逮捕された俳優の清水尋也容疑者(26)
【大麻のルールをプレゼンしていた】俳優・清水尋也容疑者が“3か月間の米ロス留学”で発表した“マリファナの法律”「本人はどこの国へ行ってもダメ」《麻薬取締法違反で逮捕》
NEWSポストセブン
サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(X、時事通信フォト)
大麻成分疑いで“ガサ入れ”があったサントリー・新浪剛史元会長の超高級港区マンション「かつては最上階にカルロス・ゴーンさんも住んでいた」
NEWSポストセブン
賭博の胴元・ボウヤーが暴露本を出版していた
大谷翔平から26億円を掠めた違法胴元・ボウヤーが“暴露本”を出版していた!「日本でも売りたい」“大谷と水原一平の真実”の章に書かれた意外な内容
NEWSポストセブン
清武英利氏がノンフィクション作品『記者は天国に行けない 反骨のジャーナリズム戦記』(文藝春秋刊)を上梓した
《出世や歳に負けるな。逃げずに書き続けよう》ノンフィクション作家・清武英利氏が語った「最後の独裁者を書いた理由」「僕は“鉱夫”でありたい」
NEWSポストセブン
ロコ・ソラーレ(時事通信フォト)
《メンバーの夫が顔面骨折の交通事故も》試練乗り越えてロコ・ソラーレがミラノ五輪日本代表決定戦に挑む、わずかなオフに過ごした「充実の夫婦時間」
NEWSポストセブン
サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(時事通信フォト)
《麻薬取締法違反の疑いでガサ入れ》サントリー新浪剛史会長「知人女性が送ってきた」「適法との認識で購入したサプリ」問題で辞任 “海外出張後にジム”多忙な中で追求していた筋肉
NEWSポストセブン
サークル活動にも精を出しているという悠仁さま(写真/共同通信社)
悠仁さまの筑波大キャンパスライフ、上級生の間では「顔がかっこいい」と話題に バドミントンサークル内で呼ばれる“あだ名”とは
週刊ポスト
『週刊ポスト』8月4日発売号で撮り下ろしグラビアに挑戦
渡邊渚さんが綴る“からっぽの夏休み”「SNSや世間のゴタゴタも全部がバカらしくなった」
NEWSポストセブン
米カリフォルニア州のバーバンク警察は連続“尻嗅ぎ犯”を逮捕した(TikTokより)
《書店で女性のお尻を嗅ぐ動画が拡散》“連続尻嗅ぎ犯” クラウダー容疑者の卑劣な犯行【日本でも社会問題“触らない痴漢”】
NEWSポストセブン