大事なことほど物語に格納する

 人間がノックスを酷使し、その人間もまた農園主らに酷使される中、B・ドクは父の言葉を胸に刻む一方、森を散歩中、沼に呑まれた子ノックスを救出し、以来、その〈音〉が聞こえるようになるのだ。〈紛れもない彼らのサウンドだった〉〈やっぱり唄だったんだ……〉

 そして彼らの能力に驚き、その時助けた〈アノア〉や父親の〈モル〉と信頼関係を築いた彼は、ノックス=〈凶暴で知恵も何もない〉と決めつける農園主たちに疑問を抱き、O・ドク共々、その一方的な搾取の構造に闘いを挑むのだが──。

「今時は読書も早漏感覚というか、5分でイケますとか10分で泣けますとか、おみくじみたいな小説ばっかりじゃない? ただでさえ世の中どんどん生きづらくなってるのに、困るよねえ。

 もちろんシステムを劇的に変えるのは難しい。でも今の流れは間違ってるってことを提示し、かつ安全に届けるには、小説が一番なんですよ。実は今みたいにみんなが閉塞感を抱えてる時に、一番怖いのは簡潔・簡単なことを言って近づいてくるヤツで、もし反対に難しいことを長々と丁寧に話す政治家がいたら、俺は断然そっちを信用するな。

 そして口先だけの連中に流されないためにも、俺ら物書きが本当にダメなものとダメじゃないものの別を明示し、特に若い世代には丁寧に教えないとダメだと思うんです。仮にその球が外れても小説に書くだけなら被害も少ないし、他国と融合せずにきた分、先鋭化しがちな自分たちの歪みを、日本人は俺も含めてわかんない部分があるじゃない。それでも今までは内需で食えたけど、今後はそうもいかないからさ。外に出られる頭とボディとハートを持った人間を育てていくのも、小説の役割かなって」

 それもこれも小説が感情と思想を伝えうる媒体だからこそだと言う。

「しかも人っていいものと悪いものを提示されたら、基本はいいものに反応するようにできてるんです。ただし『♪命は大事』 とか『♪平等~』とか、耳障りのいいお題目を幾ら歌ってもダメで、大事なことほど物語の中に格納しないと。

 例えばドクたちの状況を米南部のプランテーション時代に重ねる世代もいれば、こういうの嫌だなあ、支配構造と闘うドクたちの方が断然カッコいいなあって、歴史も技能実習制度も関係なく直観する世代もいると思う。そして少しでもいい方向に針が傾けば、あとは小説が持つ教育機能が働いて、よし、俺らもってことになるかもしれないし」

関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン