芸能

『日本沈没』、視聴者を惹きつける理由は「リアル」よりも「モヤモヤ」?

面目躍如となるか

『日本沈没-希望のひと-』に主演する小栗旬

 初回から3話連続で世帯視聴率15%台をキープし、好調が続く連続ドラマ『日本沈没-希望のひと-』(TBS系)。好調の背景について、コラムニストのペリー荻野さんが分析する。

 * * *
『日本沈没-希望のひと-』は、小栗旬と松山ケンイチと杏、ふたりの大河ドラマ主演俳優と朝ドラ主演女優と「日曜劇場」の名物男となった香川照之を中心に、豪華キャストが過去に何度も映像化された小松左京の名作に挑んでいる。このドラマを見ていて、つくづく思うのは、令和のSFドラマは、「リアル」も大事だが、同時に「モヤモヤ」も大事だということだ。

 モヤモヤは第一話からいきなり出てくる。舞台は2023年の東京。なんと再来年の話なのである。異端の地震学者・田所(香川照之)が、近い将来、関東が沈没すると発言。環境省の天海(小栗旬)は、田所を黙らせるため、その説を否定する東大の世良教授(國村隼)らと潜水艇で海底を調査する。田所は自説の証である“鋭角の断層”があったと主張するが、世良はあくまで否定。決定的証拠となる録画されて映像には断層など映っていなかった!?

「前置きはいい。要件を言え」と下唇を突き出す田所。昆虫愛を炸裂させる「カマキリ先生」の延長上にいるような迫力の香川の博士っぷりはすごいが、その田所は、訪ねてきた天海に「近くこの島が沈む」とペラペラと紙の資料を広げて見せる。今どき、紙ですか先生…その上、「私の直感とイマジネーションがそう言ってるんだ」なんてことを言われても。モヤモヤは募るばかり。

 しかし、実際はモヤモヤで正解なのである。『日本沈没』というタイトルが出た時点で、視聴者は、大混乱になることは大方わかっている。沈没が本当に起きるのか、それはいつか、みんなの意見はまとまるのか、対策はどうするのか。モヤモヤするから視聴者は引っ張られるのだ。

 また、映像面でもモヤモヤは役に立つ。田所や天海が潜水艇の丸い窓から見た海底の景色はかなりのモヤモヤでよく見えない。私などは「あのダイオウイカだって、もっと鮮明に見えたぞ」と思ってしまった。

 思えば、70年代に公開された映画版、ドラマ版の『日本沈没』は、特撮作品だった。製作・企画を手がけたのは『ゴジラシリーズ』で知られる田中友幸。東宝が当時、史上最高の製作費5億円をかけたという映画では巨大な橋が流され、家屋が破壊され、富士山の噴火も起こる。「のたうつ日本列島」の姿は、精巧なミニチュアなどを駆使した日本が誇る特撮技術で作られている。その志は、いかにリアルに見せるかだったはずだ。
 

Getty Images

小栗旬と妻の山田優(写真/Getty Images)

 一方、今年の『日本沈没』で、田所博士の予言通り、島が沈むシーンは、空撮も含めて、とってもリアルだった。今やリアルにしようと思えば、映像技術でどこまでもできる。だが、今回は、その技術でもって、鋭角の断層がモヤモヤと隠されたのだ。

 副首相・里城(石橋蓮司)に圧力をかけられる首相の東山(仲村トオル)の対策ははかどらず、ここでもモヤモヤ。そんな中で物語はいよいよ「半年以内に関東圏沈没」が国民に知られることになる。今後、リアルな災害シーンも出てくるはず。モヤモヤはすべて解決するのか、視聴者に委ねられるのか。モヤモヤは、やっぱり人を惹きつける。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ハワイ別荘の裁判が長期化している(Instagram/時事通信フォト)
《大谷翔平のハワイ高級リゾート裁判が長期化》次回審理は来年2月のキャンプ中…原告側の要求が認められれば「ファミリーや家族との関係を暴露される」可能性も
NEWSポストセブン
今年6月に行われたソウル中心部でのデモの様子(共同通信社)
《韓国・過激なプラカードで反中》「習近平アウト」「中国共産党を拒否せよ!」20〜30代の「愛国青年」が集結する“China Out!デモ”の実態
NEWSポストセブン
裁判所に移されたボニー(時事通信フォト)
《裁判所で不敵な笑みを浮かべて…》性的コンテンツ撮影の疑いで拘束された英・金髪美女インフルエンサー(26)が“国外追放”寸前の状態に
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《自宅でしっぽりオフシーズン》大谷翔平と真美子さんが愛する“ケータリング寿司” 世界的シェフに見出す理想の夫婦像
NEWSポストセブン
山上徹也被告が法廷で語った“複雑な心境”とは
「迷惑になるので…」山上徹也被告が事件の直前「自民党と維新の議員」に期日前投票していた理由…語られた安倍元首相への“複雑な感情”【銃撃事件公判】
NEWSポストセブン
アメリカの人気女優ジェナ・オルテガ(23)(時事通信フォト)
「幼い頃の自分が汚された画像が…」「勝手に広告として使われた」 米・人気女優が被害に遭った“ディープフェイク騒動”《「AIやで、きもすぎ」あいみょんも被害に苦言》
NEWSポストセブン
お騒がせインフルエンサーのボニー・ブルー(時事通信フォト)
《潤滑ジェルや避妊具が押収されて…》バリ島で現地警察に拘束された英・金髪美女インフルエンサー(26) 撮影スタジオでは19歳の若者らも一緒だった
NEWSポストセブン
山上徹也被告が語った「安倍首相への思い」とは
「深く考えないようにしていた」山上徹也被告が「安倍元首相を支持」していた理由…法廷で語られた「政治スタンスと本音」【銃撃事件公判】
NEWSポストセブン
不同意性交と住居侵入の疑いでカンボジア国籍の土木作業員、パット・トラ容疑者(24)が逮捕された(写真はサンプルです)
《クローゼットに潜んで面識ない50代女性に…》不同意性交で逮捕されたカンボジア人の同僚が語る「7人で暮らしていたけど彼だけ彼女がいなかった」【東京・あきる野】
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(Instagramより)
「球場では見かけなかった…」山本由伸と“熱愛説”のモデル・Niki、バースデーの席にうつりこんだ“別のスポーツ”の存在【インスタでは圧巻の美脚を披露】
NEWSポストセブン
モンゴル訪問時の写真をご覧になる天皇皇后両陛下(写真/宮内庁提供 ) 
【祝・62才】皇后・雅子さま、幸せあふれる誕生日 ご家族と愛犬が揃った記念写真ほか、気品に満ちたお姿で振り返るバースデー 
女性セブン
村上迦楼羅容疑者(27)のルーツは地元の不良グループだった(読者提供/本人SNS)
《型落ちレクサスと中古ブランドを自慢》トクリュウ指示役・村上迦楼羅(かるら)容疑者の悪事のルーツは「改造バイクに万引き、未成年飲酒…十数人の不良グループ」
NEWSポストセブン