「5人だからよかったんでしょうね。どこか俯瞰的な感じがあって、1対1の時より人のことが多角的に見える。その中で、あっ、この人、いい人だなって。そうやって結婚前の話や局アナ時代の裏話、あとは秋史の浮気が発覚した時の修羅場も交えつつ、幅広い層が読める本にしたかった。

 それこそ浮気の証拠を見つけた時は、『これはドラマ?』って思いました(笑)。昔、『徹底的に愛は…』というドラマで外務官僚の夫に浮気された妻を演じたんです。その時、大きな窓に鬼の形相で花瓶か何かを投げつける場面があったんですね。『さすがに激し過ぎたかな?』って後で離婚経験者の友人に聞いたら、『全~然。現実の修羅場はあんなもんじゃないわよ』って(笑)。

 まあうちは窓こそ割れなかったものの、夫が独立したり病気になったり、ドラマ以上にドラマチックな36年半ではありました」

 多忙ですれ違いも多かった夫婦は2003年、夫の転勤でNYへ。父を早くに亡くし、母1人子1人で育った山村氏には母の呪縛から逃れるために結婚した部分もあったが、秋史氏はそんな母に対する愛も憎も丸ごと受け止めてくれた。

「私は3人以上の家族経験がなく、母といた時も結婚直後も、ずっと1人で淋しかったんです。それが何事も2人単位のNYで夫婦の時間を持てて、やっと家族になれた気がした。

 例えば再び1人になった私のことを心配して下さる方は有難いことに大勢いる。でも家族じゃないんですね。こうやって取材を受けたり、女優のお仕事をしている時もそう。私は元気なフリをしていて、本当の気持ちが時々わからなくなるんです。受け止めてくれる家族がいないから。とりあえず今は97歳になった母やワンコがいるから意地でも生きなくちゃって思ってますけど、いつかフリがフリじゃなくなる日がくるのかなあ……」

最後の最後まで奇蹟を信じた

 夫婦は〈二心二体〉だと主張する夫に、一理あると思いつつも抗う妻の関係は、最長110日にも及ぶ入院生活を通じて徐々に変化。中でも北向きの窓から注ぐ日差し、〈ノースライト〉に包まれた2人だけの時間は、コロナ禍で面会が制限される中、たとえささやかでもあってよかったと思うほど、穏やかでかけがえがない。

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