「祈祷も含めてやれることは全部やりました。『気が済むまでって何?』って言いたくなるくらい、私たちは最後の最後まで奇蹟を本気で信じた。それしか、救われる術がなかったんですね。
そんな中、最後の病室が北向きで微かな日光しか拝めない毎日でしたけど、夫の隣で寛ぎ、体温を直に感じられたのは本当に幸運でした。確かに一心同体の危うさもわかる。でも夫婦が運命共同体にならざるを得ない局面は必ずあって、相手のダメな部分や綻びをむしろ愛おしく感じ、長所より欠点で結ばれた存在が家族なんじゃないかな?」
〈大切な人と別れることが、人間の宿命だから〉という友人で脚本家の大石静氏の言葉を、彼女は最後に引く。
「それだけ大切な人との時間は1分1秒も軽んじてはいけない。いっそのこと夫婦や家族のナナハグ運動でも始めましょうか!(笑)」
おそらくその孤独も傷も2人だけが分かち得た固有のものだからこそ、人々を広く繋ぐ普遍たり得るのだ。
【プロフィール】
山村美智(やまむら・みち)/1956年三重県生まれ。津田塾大学学芸学部英文学科在学中に東京キッドブラザースの東由多加代表にスカウトされ入団。卒業後はフジテレビに入社し、「オレたちひょうきん族」等で活躍。1984年に宅間秋史氏と結婚し、翌年退社。以来女優業等で幅広く活動し、2002年に自ら脚本・主演・演出を務めた2人芝居「私とわたしとあなたと私」を発表。NY滞在中の2007年には同作の英語版をオフ・ブロードウェイで上演した。166cm、B型。
構成/橋本紀子 撮影/朝岡吾郎
※週刊ポスト2021年11月12日号