70歳の女性職員が60代の男性入居者の介護をするなど、通常イメージされる介護の関係とは異なる、年齢の逆転現象も起きているという。だが、なんといっても一番の問題は、入居者と職員の間の大きな格差が、若い人が老人を介護する場合には目立たなかったのに、年齢が近いがゆえに目に見えた状態になっていることだと指摘する。
「お金があるから立場が上、というお考えなのでしょう。真面目に働いてきたからお金があるという自負もあるのかもしれません。だからなのか、自分と変わらない年齢で働く高齢スタッフを見下し、冷たく当たり、中にはセクハラをするような人もいる。お金を見せられて入居者に誘惑された、という高齢スタッフもいて、老老介護が進んでいるからこその新たなトラブルだと感じています」(佐々木さん)
千葉県内のデイケア施設に勤務する介護士・橋口理恵さん(仮名・30代)も、職場で似たような経験をしたという。
「60代後半の男性スタッフが、70代の女性入居者から、貧乏人とか負け組とかいつもいじられていたんです。スタッフは当初、笑ってやり過ごしていたのですが、あまりにしつこくて、とうとう堪忍袋の緒が切れちゃったんです。とはいっても言い返しただけなんですが、初めて言い返されてカッとなった入居者の方がスタッフに掴みかかりました」(橋口さん)
この一件は警察沙汰となり、結局、職員も入居者も施設に居づらくなって去って行った。このように、職員と入居者の年齢が近いからこそ、そこにはさまざまなトラブルの「芽」があると話す。
「高齢スタッフが、裕福な入居者を騙してお金を取り上げたり、窃盗騒ぎも起きました。確かにセクハラめいたことは以前からあって、若いスタッフが入浴のお手伝いをするときとか要注意でした。でも、高齢の女性スタッフが担当だったりすると、入居者のセクハラ率が高いようなんです」(橋口さん)
もちろん、年齢が近いからこそ、元気な同世代のスタッフをありがたがる入居者もいる。だが、介護を受けるものと施すもの、という関係性より、老老介護の現場では「金持ちと貧乏人」、もしくは「恵まれている人とそうでない人」という対立構図に陥るパターンが少なくないという。
「介護の現場は今なお慢性的な人不足。高齢なのにお金がない、施設にも入れないという人が仕方なく施設で働いていることも珍しくありません。今後は、そんな人がもっと増えるでしょう」(橋口さん)
後は年金で悠々自適に、という時代があったのかもしれない。だが、これからは、そんな余裕のある隠居生活など不可能ではないかと思わずにはいられない。筆者が高齢者になる数十年後、もはや年金が本当に受給されるのかどうかすら怪しい情勢になってきた。
「1億総活躍社会」「アクティブシニア」などというキーワードが持て囃されたが、高齢になっても働かざるを得ない、というのが真相ではないのか。そこには、今まででは考えられなかったようなトラブルが頻出する可能性も高いのだ。