新聞の論説委員から58歳で書店を開業。その過程を詳らかにした落合さんの著書『新聞記者、本屋になる』
「みなさん親切で、家賃がいくらか、改装費にどれぐらいかかるか、といったことも、聞けばなんでも教えてくれました。最初は古本屋をやるつもりでしたが、福岡のブックスキューブリックのオーナー、大井実さんに『新刊が置いてあった方が店に勢いが出る』と言われ、新刊書店に変更。京都で誠光社書店を始めた堀部篤史さんにはトークイベントの後に話しかけ、本の仕入れ先として、『子どもの文化普及協会がいいよ』と教えてもらいました」
17歳年下で、看護師としてフルタイムで働く妻は、本屋をやることに反対だった。
「逆の立場だったら、ぼくも反対しますよ。正社員で働いている夫が、定年を前に辞めて、儲からないと言われてる本屋をいきなり始める、って言うんですから。子どもはまだ小さいし、『何考えてんの?』って言うと思います」
この先やっていけるのか、妻に聞かれたとき、落合さんは、「ぼくにもわからない」と答えたらしい。
「何とかなるだろうと思いつつ、やったことのない商売を始めるんだから、細かいことを聞かれてもわからないんですよね。売り上げのシミュレーションはしましたよ。でも机上の計算だし、実際、店を始めたらまるで違っていました。説明になるかわかりませんが、足のつかない50mプールでも、とりあえず泳ぎ切る自信はあった。そういう感じでしたね」
正直と言えば正直だが、小さい子どもを抱えて妻が不安になる気持ちもわかる。だいぶ経ってから、「離婚しようと思った」と、そのときの気持ちを伝えられたそうだ。
自分にできないことは得意な人にお願いする
書店として借りているのはもともと倉庫だった建物で、一級建築士の白井宏昌さんに設計を依頼した。「阪急電車の色」と落合さんが呼ぶ、えんじ色の外観はおしゃれで、街並みにもすんなり溶け込む。ドアを開けて中に入れば吹き抜けの高い天井で、開放的な空間が広がっている。
「建築もデザインも、全然詳しくなくて、白井さんにお願いしたのは、そのときぼくが知っていた唯一の建築家だったから(笑い)。お願いしたら快く引き受けてくださって、本当にありがたかったです。巻き込み型というのか、自分にできないことは得意な人に、どんどんお願いする方式です」
店名に「読む」以外に「書く」が入っているのは、新聞記者としての経験をいかし、落合さんがライティングの個人レッスンを開いているから。「書く」ことについての本の棚は、開店当初から店の核になっている。