資産家の奥様らしく、いつも仕立てのいい着物を身に纏い、息子の稔と勇(村上虹郎)を溺愛していた。良家のお嬢様育ちで奥様となれば、仕事もしていなかったはず。息子たちに自分の全ての愛情を注いでいたはずだ。
印象的だったのは、結婚前に安子の存在を許すことができず、息子に内緒で呼び出して、和菓子の代金代わりに手切れ金を渡すシーン。無表情で白い肌を光らせながら静かに玄関から出てくる様子には、怨念に近いものを感じた。ただ出てきただけなのに……。「この人、本当に朝ドラ初出演なのだろうか?」と見紛う。
結婚への小さな反抗劇を見せた後は、初孫・るいを可愛がるばあばへと変貌した。個人的に安子をいびる姑姿をもうちょっと見たかったけれど、いつまでも乙女であり続ける美都里を最後まで演じ切ってほしい。そう、戦火から逃れて、ドラマの中で元気に長生きをしてほしいのだ。
故・樹木希林さんの姿がよぎる『じゃない方の彼女』
良家の奥様役とは一転、『じゃない方の彼女』(テレビ東京系)ではファンキーなばあちゃん姿を見せている。
妻帯者である大学准教授の小谷雅也(濱田岳)は生徒の野々山怜子(山下美月)と恋に落ち……そうになっている。つまりは不倫。愛する家族を裏切ってしまう背徳感と日々戦っている。根が非常に真面目なのだ。
そんな雅也の母・小谷弘子をYOUさんは演じている。小学2年生の孫を可愛がる一方、恋愛小説家という職業柄、孫には聞かせられない話を息子の家で毎回披露。いつも突然現れて、雅也の心をかき乱していく。
前述の美都里と比べると、だいぶコミカルな役である。息子の家に登場する時も暗闇の窓から現れたり、話している最中にネタが浮かんで急遽、帰宅をしたり。彼女のパブリックイメージにだいぶ近い、軽快さだ。その様子が自由すぎて他の女優さんが演じる様子を全く想像できないほど。
でも一人だけ挙げるのなら、ふと樹木希林さんの姿がよぎった。勝手なことばかり並べているように見せながら、実は一本筋の通った生き方で世間を魅了していた樹木さん。私が個人的にお見かけしたYOU さんといえば、10年以上前にクラブで楽しそうに飲んでいる姿である。ただ、どんなに酔って帰っても息子さんの弁当だけは作っているという記事を読んで、力強さを感じた。そんな二人の後ろ姿には通ずるものが……見えた。私には確かに見えた。