愛南町出身で、学校近くのマンションに母親と暮らす一郎と、不動産業を営んでいた父親が贈収賄で逮捕され、都内の名門私立を追われた寮生の俊哉。そして実家が料理屋を営む後の後援会長〈佐々木光一〉の3人が、〈ねえ、何読んどんの〉と本の話で盛り上がり、〈俺たちが話しとったんは『砂の器』の映画の方や〉と言って一郎の部屋でビデオを見る約束をするあたりは、ごくごく自然な青春だ。
が、父と子の過酷なお遍路旅に一郎は号泣し、唐突に自らの出自を打ち明ける。実は彼の実父は大物代議士〈和田島芳孝〉で、銀座のクラブ出身の母〈浩子〉は一人で息子を産み、祖母と育ててきたというのだ。
やがて俊哉は東大から経産省、一郎は早大から福音学園OBの議員〈武智和宏〉の秘書となり、27歳で初当選。俊哉が政策担当秘書に就き、着々と出世するが、その間、俊哉と浩子は立場を越えて急接近し、武智も謎の事故死を遂げるなど、不穏な影が―。
一方、一郎の自著『悲願』を手掛かりに一連の闇に迫るのが、東都新聞の〈道上香苗〉だ。彼女は彼の自著にない大学時代の空白や卒論で扱ったヒトラーの参謀・ハヌッセンに着目。清家一郎とは何者かの操り人形であり、〈ニセモノ〉ではないかという仮説の下、その過去を徹底的に洗い直すのである。
日本の息苦しさは決めつけのせい
執筆に際しては約40名の政界関係者に会ったという。
「僕自身は政治をネガティブには捉えてなくて、期待感が物凄くあるんですけど、耳障りのいいことばかり言う議員はむしろ信用できない。逆にこっちが知らず知らずのうちに転がされていたのではないかと感じる強者もいて、そういう人ほど出世もしているんですよね。
失望したのは、ある議員が自分はいつ議員を辞めてもいいんだと、さも潔い風に言ったこと。僕の感覚からするとそれってすごくダサい台詞で、沢山の人があんたに時間やお金を投資し、期待もかけてるんだから、もっと執着しろよと。それこそ国とか国民のためにどれだけ執着できるかが政治家の唯一の正義だと僕は思っていて、その心意気の有無が本物と偽物を分けるんだと思う」
香苗が会社をやめてまで追う謎多き政治家の過去と、常に人が切ったり切られたりする政治の情け容赦なさ。第4部以降にはさらにゾッとする怒涛の展開が待ち、それを著者自身、ほぼ寝ず食べずの極限状態で一気に書き上げたという。
「今の日本が息苦しいのは一方的な決めつけのせいで、知りもしない人を叩くだけ叩いて選挙には行かないとか、ホントに傲慢だなって。
その1票で何かが変わる可能性があるなら、期待を込めて謙虚に臨むべきだし、本当に国民のためを思って働く政治家も結構いるのに、みんな見くびり過ぎです。彼らがイイ人である必要はない。むしろ本当の自分なんてなくてもきちんと化け物であってほしいし、その空洞を国のために使う縦軸さえブレなければいい。5秒後を考えられない人に、10年、20年後の世界を考えられるはずもなく、『政治は未来のもの』という政治観は僕の本心でもあります」