生きた心地がしないほどなのに、誰も助けてくれない
一方、こうした「晒し行為」が横行する中、彼らは新たな「融資基準」を設けた。それは、通常の貸金業のように収入の多寡や属性を確認する、といったものではなく、借り手に「裸」の写真や映像を送らせるというものだった。当時、中国で「裸の写真や動画」を担保にした、主に女性向けの違法融資が行われていたが、それが日本でも始まってしまったのだった。
「無職でしたが、家庭の事情でどうしても実家に帰省する必要があり、ひととき融資で8万円を借りました。10万円借りたかったのですが2万円は天引き。借りるときに、上半身裸の写真を要求されました」
こう話すのは、昨年の春、SNSを通じて「ひととき融資」を利用したという神奈川県在住の派遣社員・後藤麻里香さん(仮名・20代後半)。当然、怪しいと思ったが、なんとしてでも帰省せざるを得ない状況を考えると背に腹は変えられず、また「返せば絶対に写真は返す」と言われたこともあり、結局は半裸の写真を自ら撮影し、先方に送ったのであった。しかし、その後に起きたことはあまりに残酷だった。
「一週間後には8万円を返済したのですが、手数料がかかるとかなんとか言われて、あと1万、もう1万と要求されました。知人と相談して無視することにしたのですが、その後すぐ、私がお金を借りるときに送った写真がSNSでばら撒かれました。顔には薄いモザイクがかけられていましたが、私の名前も住所も出ていました。消すように言っても『お金を返して』の一点張り。さすがに警察に行きましたが、解決への手助けは得られなかった」(後藤さん)
警察は後藤さんの話を親身になって聞いてくれたものの、被害届は受理されなかった。
「おたく(後藤さん)も(違法業者に金を借りることが)悪いという認識はあったのだろう、といわれ、もっとよく話し合うか、被害が大きくなってから相談してと。生きた心地がしないほどなのに、誰も助けてくれないんだと思い、家から出られなくなってしまいました」(後藤さん)
相談した警察の窓口の認識が生ぬるかったのは不運だと言うしかないが、この出来事は、後藤さんの人生を大きく変えてしまった。ちょうど就職活動を行っていたタイミングだったのだが、この件があり、就職は諦めて実家に舞い戻り、今はできるだけ目立たぬよう、ひっそり暮らしているという。
返済しなかったり、後藤さんのように返済してもあれこれ因縁をつけられた末にばら撒かれた写真や動画は、ただネット上にアップされるだけではない。写真や動画はSNS上で販売されていて、それらの売買目的のために作られたようなアカウントも存在する。さらに悲惨なことが起きている、と捜査関係者が説明する。
「写真や動画は不特定多数の、世界中の人々へ向けてネット上で販売され、各国のポルノサイトに転載されます。こうなれば、全てを消すことは事実上、不可能になり、一生、被害者の写真や動画が人目にさらされつつけることになるのです」(捜査関係者)
実家までバレていたら、相手の言うがまま
後藤さんによると、自身と同じように写真や動画などで素性を晒されていた女性は、「ひととき融資」関係者と見られるアカウントによって、あられもない写真や動画を続々とばら撒かれた。その挙句、最終的には成人向け作品に出演させられたのだという。
「モザイクのないアダルトビデオで、映像のキャプチャとその子の免許証が晒されていました。私の場合、実家が相手にバレていなかったから逃げれば済みました。でも実家までバレていた場合、家族にも迷惑がかかるし、そういったビデオに出て、相手の言うがままにお金を返し続けなければならないんです」(後藤さん)
前述の捜査関係者は、これらの現状を当局も把握はしているものの、実際には「摘発するには手間も時間もかかり現実的でない」と漏らす。
もちろん、借り手側にまったく瑕疵がないとは言わない。わずかな金銭のために自身の将来や尊厳までを反社会性力に売り渡す危険性に、少しでも考えが及ぶことはなかったのか、とさえ思う。しかし、非正規で働かざるをえなかったのに、会社都合で仕事を失っても非正規だからと補償もろくにされない、さらに行政や警察などに相談しても冷たくあしらわれたら、危うい相手であろうとすぐに手を差し伸べてくれる人にすがってしまうだろう。
金を貸してくれるなら悪人だって構わない、追い込まれていればそう考えたくなる気持ちも理解できる。まさに「金が無いのは首が無いのと同じ事」。そんな時、ここで紹介したような被害者の声を思い出し、一歩踏みとどまってほしいと切に願うし、手間がかかるから、もっと大きな被害に遭ってからと、その場をやり過ごすだけのような対応を世間が続けていてよいのか。足元から社会が揺らぎ始め、完全に崩れてしまってからでは遅いのだ。