ファッションや映画でも活躍する

モデルとしても活躍する(写真/時事通信社)

 本作での小松は、振れ幅の大きな異なる顔を見せている。彼女が扮している佐薙は複雑な事情を抱える女子高生。視線恐怖症によって周囲の存在にひどく怯え、世の中を達観し、諦念を抱いている。それでいて、自分と同じ孤独な高坂には露悪的かつ攻撃的な態度を取る。つまり小松はこの一つの作品内で、佐薙の“儚く脆い一面”と、それとは対照的な“勝ち気で危険な一面”とを演じ分けているのだ。そしてここに、ラブストーリーのヒロインとしての表情も加わるため、一筋縄ではいかない佐薙というキャラクターの難しさが分かるだろう。小松の演じ手としての力量が問われるところだが、彼女はこれらすべてを的確に表現していると思う。

 監督の柿本といえば、映画監督としてのキャリアを築きながら、数々のテレビCMやミュージックビデオを手掛けてきた存在だ。本作は、より俳優の“芝居”にフォーカスしたシーンもあれば、“見せ方”にこだわったシーンも多い。周囲に対する恐怖心や、高坂に向けて愛情を表現する際には小松の俳優としての経験値が反映され、スタイリッシュな映像演出には、彼女がモデルとしても活躍する側面が活きている。

 白眉なのが、湖で水浸しになりながら、恋に落ちてしまった高坂に激しく感情をぶつけるシーンだ。寒々しい湖の中に女子高生がいる光景は、シチュエーションとして非現実的。しかしここに違和感なく小松が収まることができているのは、彼女が優れた被写体であることを証明していると思う。

 そして、ここでのエモーショナルな演技にも魅了される。感情の高ぶりが頂点に達した佐薙の演技に小松は全力だ。この手の演技はネガティブな意味での“熱演”に陥りやすく、ともすると観客を置き去りにしかねない。しかしそうならず、観客を物語の世界に引き込むことに成功しているのは、彼女が自身の演技に客観的な視点を持ち、コントロールしていることの表れだと思うのだ。

 出演する作品ごとにキャリアを更新してきた小松。初の単独主演を果たした映画『ムーンライト・シャドウ』での姿も素晴らしかった。しかし、俳優とモデルどちらの経験も大いに活かされ、より振り切れている佐薙役は、小松菜奈の真骨頂が見られるものだと断言したい。

【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。

関連記事

トピックス

今季のナ・リーグ最優秀選手(MVP)に満票で選出され史上初の快挙を成し遂げた大谷翔平、妻の真美子さん(時事通信フォト)
《なぜ真美子さんにキスしないのか》大谷翔平、MVP受賞の瞬間に見せた動きに海外ファンが違和感を持つ理由【海外メディアが指摘】
NEWSポストセブン
国仲涼子が語る“46歳の現在地”とは
【朝ドラ『ちゅらさん』から24年】国仲涼子が語る“46歳の現在地”「しわだって、それは増えます」 肩肘張らない考え方ができる転機になった子育てと出会い
NEWSポストセブン
柄本時生と前妻・入来茉里(左/公式YouTubeチャンネルより、右/Instagramより)
《さとうほなみと再婚》前妻・入来茉里は離婚後に卵子凍結を公表…柄本時生の活躍の裏で抱えていた“複雑な感情” 久々のグラビア挑戦の背景
NEWSポストセブン
インフルエンサーの景井ひなが愛犬を巡り裁判トラブルを抱えていた(Instagramより)
《「愛犬・もち太くん」はどっちの子?》フォロワー1000万人TikToker 景井ひなが”元同居人“と“裁判トラブル”、法廷では「毎日モラハラを受けた」という主張も
NEWSポストセブン
兵庫県知事選挙が告示され、第一声を上げる政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏。2024年10月31日(時事通信フォト)
NHK党・立花孝志容疑者、14年前”無名”の取材者として会見に姿を見せていた「変わった人が来るらしい」と噂に マイクを持って語ったこと
NEWSポストセブン
千葉ロッテの新監督に就任したサブロー氏(時事通信フォト)
ロッテ新監督・サブロー氏を支える『1ヶ月1万円生活』で脚光浴びた元アイドル妻の“茶髪美白”の現在
NEWSポストセブン
ロサンゼルスから帰国したKing&Princeの永瀬廉
《寒いのに素足にサンダルで…》キンプリ・永瀬廉、“全身ブラック”姿で羽田空港に降り立ち周囲騒然【紅白出場へ】
NEWSポストセブン
騒動から約2ヶ月が経過
《「もう二度と行かねえ」投稿から2ヶ月》埼玉県の人気ラーメン店が“炎上”…店主が明かした投稿者A氏への“本音”と現在「客足は変わっていません」
NEWSポストセブン
自宅前には花が手向けられていた(本人のインスタグラムより)
「『子どもは旦那さんに任せましょう』と警察から言われたと…」車椅子インフルエンサー・鈴木沙月容疑者の知人が明かした「犯行前日のSOS」とは《親権めぐり0歳児刺殺》
NEWSポストセブン
10月31日、イベントに参加していた小栗旬
深夜の港区に“とんでもないヒゲの山田孝之”が…イベント打ち上げで小栗旬、三浦翔平らに囲まれた意外な「最年少女性」の存在《「赤西軍団」の一部が集結》
NEWSポストセブン
スシローで起きたある配信者の迷惑行為が問題視されている(HP/読者提供)
《全身タトゥー男がガリ直食い》迷惑配信でスシローに警察が出動 運営元は「警察にご相談したことも事実です」
NEWSポストセブン
「武蔵陵墓地」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月10日、JMPA)
《初の外国公式訪問を報告》愛子さまの参拝スタイルは美智子さまから“受け継がれた”エレガントなケープデザイン スタンドカラーでシャープな印象に
NEWSポストセブン