『弁護士・亜嵐陸法は漫画家になりたい』
――海賊版サイト運営者を敵にするアイデアはいつ頃からあったんですか?
中島:もともとは2年くらい前ですかね、海賊版サイトを題材にした企画をやりましょうって話になり打ち合わせもしたんですが結局形にならなくて。で、改めて『亜蘭』で漫画好きの弁護士が法律で戦うんだったら最初の敵は海賊版サイトがいいかなと思い選びました。前の企画ではノンフィクションに近い形でしたが、今作ではあくまで架空の話です。
――現在の海賊版サイトの状況について教えていただけますか。
中島:最新の状況だと、トップ10に数えられる10個の海賊版サイトのアクセス数合計を合算すると月間約4億アクセス(※2021年10月時点の数字)です。ただ、その後に開示請求のお手伝いをした「漫画BANK」という違法サイトが閉鎖されたので、8000万ぐらい減ってて…3億ちょっとになってるんじゃないかと思います。トップ1、2のサイトの合計アクセス数だけでも2億ぐらいあるんですね、そこでタダ読みされた漫画の被害額としては、今年の1月から11月までで約7827億円です。
今はもう漫画村の時の被害額を遥かに超えてて…。漫画村の月間アクセス数が大体1億、別の数字だと1億7000万っていう数字もあるんですけど、それを今のトップサイトは優に超えていて。被害額も、漫画村の時は大体3000億円ぐらいって言われてたんですけど、今のほうがずっとずっと大きいんですね。まあ被害額と運営者が得ている利益はイコールではないんですが。運営者は広告収入なので。
一つの原因として、コロナ禍があります。巣ごもりになった時期にアクセス数が急上昇しました。
――2017~2018年の漫画村騒動の頃よりも海賊版サイトについて騒がれていないように感じますが…
中島:そこが難しいところで。結局、海賊版サイトの名前を閉鎖される前に出してしまうと意図せず宣伝になっちゃって、更にひどい状況になりかねないんですね。ですので、出版社は閉鎖させられた時や運営者を摘発したっていう時にしか言えないんです。
今は特にベトナム系の海賊版サイトが非常に酷い状況で、たとえば今年だと日本の国家公安委員長からベトナムの公安大臣に海賊版サイトの取り締まり要請を正式に行っています。大々的には報じられていないんですが、ちゃんと政府のバックアップもあって各出版社団結して海賊版対策はしています。
ただ、漫画村に続く大きな摘発がないっていうのが一つのネックでして。漫画村がたまたま捕まっただけだと思っている運営者もいると思うので、イタチごっこだと諦めず、第二弾、第三弾と摘発をすることで、海外サーバーを使っていても捕まるんだってことが周知できれば、だいぶ抑止力となって状況は変わると信じています。
武村:国際犯罪ですね。
中島:だからこそ、この経験を『亜蘭』の最終決戦の時は使いたいと思ってて。
武村:そうですね。最後の舞台は宇宙ですよね(笑い)。
中島:(笑い)。宇宙とか、アマゾンとか……もしも著作権侵害者を開示する法律がない場所に海賊版サイトのサーバーがあって運営されてたら? という規模の話はやりたいなと考えてます。
ぼくの好きな漫画『ジョジョの奇妙な冒険』という作品の中に「真実に向かおうとする意志があれば遠回りでもいつかはたどり着く」という内容のセリフがあってですね、海賊版サイト対策も同じだと思っています。例えば、プロバイダ責任制限法の改正で、昔は電話番号の開示ができなかったんですが、今はできるようになったんです。それに、来年度は文化庁で海賊版対策の予算を新しく組んでいただけたりする予定だとか、警察庁でサイバー直轄隊という200人規模のサイバー犯罪対策の部隊が創設されるとか、政府も注力して日本のコンテンツを守るという動きが出ていて。戦い続ける意思を持つことが重要だと思っています。
武村:かっこいい! 正に主人公だ。『亜蘭』でも描きたいですね、このへんのことは。
中島:いや、武村先生の描くキャラクターがいてこそですよ。ぼくが難しく法律のこと書いても読者は飽きちゃうと思うので。武村先生が構成を面白くまとめ直してくださって、さらに素晴らしい絵で描いてくださるからこそですね。