ビジネス

「業界の救世主」だった豊田章男社長はなぜ「EV推進派」に変貌したのか

EV関連に4兆円を投資すると発表したトヨタ自動車・豊田章男社長

EV関連に4兆円を投資すると発表したトヨタ自動車・豊田章男社長

  世界的なカーボンニュートラル(脱炭素)の潮流が加速するなか、自動車産業ではEV(電気自動車)へのシフトが加速している。そうしたなかこれまで「全方位戦略」と称し、ガソリン車、ハイブリッドやFCV(燃料電池車)など多様な選択肢を掲げ、EV化に遅れを取っていたリーディングカンパニー・トヨタ自動車もついに重い腰を上げた。これからトヨタ、いや、日本経済を支える屋台骨である自動車産業、ひいては日本そのものの未来はどうなるのか……。覆面作家にして経済記者、『トヨトミの野望』『トヨトミの逆襲』の著者である梶山三郎氏がレポートする。

 * * *
「トヨタEV350万台販売 30年 世界目標大幅上げ 4兆円を投資」(『読売新聞』)

 2021年の年の瀬も押し迫った12月14日、クルマのテーマパーク「メガウェブ」(東京・お台場のトヨタの施設)で、トヨタ自動車社長の豊田章男氏(65)がハデな説明会を開いた。翌朝の新聞主要紙は、トヨタが電気自動車(EV)の2030年における世界販売の目標を350万台に引き上げ、EV関連の研究開発費と設備投資合わせて4兆円を投入することを一面トップで報じ、NHKを筆頭にテレビニュースでも、「EVシフトに後ろ向きだったトヨタが動き出した」と大々的に取り上げたことは記憶に新しいだろう。

 トヨタの2020年の世界販売台数は約953万台であり、この数字をベースにすると、世界販売の3分の1超をEVにするというわけだ。また4兆円のうち2兆円を、EVの重要部品の一つであるバッテリーに充てる。これも従来計画では1兆5000億円を投資する予定だったので、5000億円引き上げることになる。

 この報道に接して、私は不思議な既視感(デジャブ)にとらわれた。というのも、巨大自動車企業を舞台にした拙著『トヨトミの逆襲』で主人公のトヨトミ自動車社長・豊臣統一(とよとみ・とういち)に、私はこんなことを言わせている。

〈お待たせしましたと申し上げたのは、と統一は喜色を浮かべたまま続けた。「この日に至るまで、あまりに時間がかかりすぎてしまったということです。私たちトヨトミ自動車は本日、自社開発によるEV『プロメテウス・ネオ』をここに発表いたします」 記者席がどっと沸く〉

 小説のなかの記者発表は2022年4月10日。マフラーなどエンジン車部品を製造する多くのサプライヤー・下請け企業を抱えて身動きが取れず世界の潮流に周回遅れだったトヨトミ自動車が世間の度肝を抜く衝撃的な発表をしたという設定である。

 だからなのか、メディアは衝撃的に伝えていたが、私はこの発表に何の驚きもなかった。率直な感想を申し上げると、トヨタがついにEVをめぐる“二枚舌作戦”をかなぐり捨てて、EVシフトへの戦いに世界最強の自動車メーカーとして公式に参戦表明したな、というところだろうか。

クルマの「スマホ化」

 さて、“トヨタの二枚舌作戦”とは何か。トヨタはすでに水面下でEVシフトをしながらも、社長の豊田氏がEV嫌いな「エンジン車の守護神」を演じていたと、私は見ている。

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン