リース機材中心で運用されてきたアマゾンの貨物機だが、2021年から中古機材を次々と購入している(イメージ、dpa/時事通信フォト)

リース機材中心で運用されてきたアマゾンの貨物機だが、2021年から中古機材を次々と購入している(イメージ、dpa/時事通信フォト)

「混載したくないのでしょうね。自社で港も確保してますし、物流倉庫も増やしています。コロナ禍でも抜かりは無かったでしょう、とくに混載したくないのでしょうね」

 複数の荷主の荷物を積み合わせた輸送方法を混載便と呼ぶが、誤配送のリスクや他社の荷物の都合に左右されるなどのデメリットがある。とはいえ、常に混載させない輸送手段を確保するには相応のコストが必要なので、従来の一般的な通販会社の規模で混載を完全に避けるのは難しい。まして現在のようにコロナ禍で不安定な状況では物流インフラ整備にまで手が回らない。そんな中でもアマゾンは入港地を5割も増やし、コンテナ処理能力を2倍に増やしたという。

「コロナ禍だからこそです。金使ったほうが勝つって当たり前なんですけど、その当たり前ができないから負ける、使うべきところに使うという点でアマゾンは徹底しています」

 大事な現場には金に糸目をつけない。至極当たり前の話だが、金があるほうが勝つ。金があれば他人に頼らずに済む。アマゾンはとにかく自社のものだけ運びたい。徹底した顧客主義、届けることに全力で金を使う。そうしたアマゾンで世界中およそ150万人が働いている。期間従業員を含めない数というのだから大変な数字だ。先の労働問題など山積だがここでは本旨ではないため言及しない。とにかく組織としては勝っている。

「本当は日本こそアマゾンのような未来の物流を構築すべきだったんです。物流にお金を使わず、下に見る文化は本当に国を滅ぼしますよ」

 営業マンの言う通りだ。今回のアマゾン賛美は本来、日本が国を挙げてこうした物流網を作るべきだったという一点にある。アマゾンは2000年に創業してたった20年で「世界のアマゾン」になった。いや、アマゾンの好きなフレーズで言うなら「地球のアマゾン」だろうか。

アマゾンも結局はアメリカという後ろ盾がある

 脆弱な日本の港や空港、蚊帳の外の日の丸海運、面倒事ばかり押し付けて金を出し渋る日本企業、30年間の負の積み重ねにより資源、食料、原材料の「買い負け」という事態に陥ろうとしている。米中ルートとハブ港を持つ一部の国、そして資源輸出国には寄っても日本はスルー、コロナ禍でこの流れは本格化している。誰かが運べばいいという浅はかな考えでいたら、いつの間にか誰も運んでくれなくなり始めた。

 アマゾンは自前で船やコンテナ、貨物機から空港まで揃え、ついには配達用の電動自動車まで子会社、提携会社で開発している。なるべく自前で揃え、使うべきところに金を使う。日本は必要な現場に金を使わず、いちいち面倒なところに細かい。そんなやり方は日本が強かったとされた時代には通用したが、円も国力も落ちたいま、崩壊寸前だ。

「もっと国の後押しが必要です。アマゾンも結局はアメリカという後ろ盾がある。中国政府はもちろん他の成長国は政府が率先して貿易の後押しをしています」(前出の営業マン)

 アマゾンを筆頭に貿易大国の威信をかけるアメリカと、世界の貿易大国の座を事実上握りかけている中国。日本も官民一体で取り組んできたはずだったが、かつてその中国になぜか民間技術を渡し、種子の流出を野放しにし、土地を自由に買える状態で放置した。これは現実だ。日本人みんなで本気になって物流を考える時が来ている。多くの現役の企業戦士はこの危機を、現場で十分に感じていることだろう。

 貿易は戦争、物流は安全保障である。アメリカもアマゾンもそれをよく知っている。物流を他国に握られるというのは血管を他人に握られるのと同じである。流してもらえなくなれば、人間と同様に国も死ぬ。この間も中国はコロナ禍に乗じて官民一体で世界の穀物の約6割を買い占め続けている。日本、残された時間はそれほど多くない。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)ジャーナリスト、著述家、俳人。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題や生命倫理の他、日本のロジスティクスに関するルポルタージュも手掛ける。

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