「SAK3はアミロイドβやシヌクレインなど特定の変性たんぱく質だけを分解するのではなく、ハンチントン、タウたんぱく質といった様々な変性たんぱく質の分解も促進するので、神経細胞死を防ぐ働きも期待できるでしょう。これからも認知症治療薬開発につながるよう研究を続けていきます」(福永博士)
認知症は約20年かけて脳内に変性たんぱく質が溜まり発症する。つまり、変性たんぱく質がどれほど脳内に溜まっているかを検査すれば認知症予防につながる。そこで先ごろ、血液で手軽に検査可能なシステムが開発された。2022年4月から運用開始される。
アルツハイマー型認知症は脳内に蓄積したアミロイドβという変性たんぱく質が原因で発症するといわれている。
アミロイドβは40~50代から脳内に溜まり始め、約20年かけて70代を過ぎた頃に発症するケースが多い。このアミロイドβが脳内に蓄積した量を知ることが予防に必要なのだが、現在はPET-CTの画像診断しか実施されておらず、しかも放射線を浴びるため、頻繁に検査ができない。そんな事情から、安全に蓄積状況を把握できる簡単な検査方法の開発が待たれていた。
引き続き、福永博士に聞く。
「脳内の変性たんぱく質による疾病はアルツハイマー型認知症だけではなく、レビー小体型認知症やパーキンソン病、ハンチントン病など多数あり、それぞれ原因となる変性たんぱく質が違うので、病気ごとに検査の必要があります。私は40年近く変性たんぱく質を研究した結果、脳が炎症を起こすと変性たんぱく質が産生され、蓄積することを突き止めました。ということは炎症を捉えれば、蓄積の量もわかるのではと思い、炎症により発生する物質の検査開発に取り組んだのです」
脳の炎症はアルツハイマー型認知症以外にも、レビー小体型認知症、うつ病、新型コロナ感染後遺症でも起こる。脳が炎症を起こし、神経細胞が傷ついたり、細胞死すると特有のたんぱく質が脳から漏れ出る。この特有のたんぱく質を検出できれば、炎症状況を把握でき、ひいては変性たんぱく質の産生も確認できる。
福永博士は炎症による特有のたんぱく質の特定に成功し、それを高感度で検出できる検査法を開発した。