一方で、自分の話のおもしろさを極めていったのが、ビートたけしだったという。
「たけしさんは、自分の周辺で起こったことを話すのですが、これがおもしろい。当時、たけしさんは何冊ものノートを持ち歩き、そこに見聞きしたことを記録していました。いわばネタ帳です。膨大なネタの中から、おもしろい話を緻密に練り上げて、笑いを生み出していたんです」
そして、ネタも構成もしっかり固めて番組に挑んでいたのが、中島みゆきだった。
「みゆきさんの場合、コーナーが決まっていたので、話の構成を固めてから披露していました。この点はたけしさん的でしたが、自分の話をしない点はタモリさん的でした」
『ANN』は新しい才能の発掘場だった
土屋さんたちが番組を作っていた頃は、パーソナリティーが有名人であっても、スタッフと対等な立場。パーソナリティーに「おもしろいことはありませんか?」と聞くのではなく、スタッフが、やりたいことを彼らにぶつけていた。双方のアイディアの掛け算で、番組をおもしろくしていったというわけだ。
また、当時は常に新しい才能を求めており、さまざまなタレントを現場の判断でゲスト出演させていたという。
「それでおもしろければ、新しい『ANN』のパーソナリティーに抜擢していました」
だからこそ、若き才能が育った。所ジョージ、稲川淳二、坂崎幸之助、明石家さんま……トークのおもしろさに定評があるタレントたちはみな、『ANN』のパーソナリティーを経験している。
『ANN』は、リスナー、パーソナリティー、構成作家……みんなで共に高め合いながら作り上げていたのだ。
取材・文/前川亜紀
※女性セブン2022年2月10日号