あくまで日記に書かれた、和さんの受け止め方ではありますが、夫の将一さんが和さんに「ちょっと、その言い方はないんじゃないの」と思うような言動をちょいちょいしていることからも、まだ若いカップル、夫婦にありそうなリアルが感じられました。一瞬引っかかるんですけど、いや、待てよ、そうだよな、と。彼だって、聖人君主でも、王子様でもなくて、普通の若い男性ですもんね。娘が夜泣きしても起きないくらいのほうが、自分を追い込みすぎないからいいのかもしれません。和さんはイラっとしていましたけど(笑い)、そういう場面が妙に生々しいんです。最後に人が亡くなってしまう闘病記は、それまでのすべてが美化される方向に傾いてしまいがちですが、この本はそうではなくて、人間の姿が真っ直ぐに描かれていると思いました。
(2月4日午後4時配信の後編に続く)
◆新井見枝香(あらい・みえか)
1980年東京都生まれ。書店員、エッセイスト、ストリッパー。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントや仕掛けを積極的に行い、中でも芥川・直木賞と同日に発表される一人選考の文学賞「新井賞」は読書家の注目の的となっている。20年からはストリップの踊り子として各地の舞台に立ち、三足のわらじを履く日々を送っている。著書に『本屋の新井』(講談社)、『この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ』(秀和システム)など。