国内

【対談】尾木直樹×茂木健一郎 受験を語る「東大前刺傷事件は息苦しさの象徴」

教育評論家の尾木直樹氏と脳科学者の茂木健一郎氏が緊急対談

教育評論家の尾木直樹氏と脳科学者の茂木健一郎氏が緊急対談

 東大前刺傷事件や大学入学共通テストでのカンニングなど、受験をめぐるトラブルが相次いでいる。教育現場ではいったい何が起きているのか。教育評論家の尾木直樹氏と脳科学者の茂木健一郎氏が緊急対談した。【全4回の第1回】

 * * *
茂木:今年1月、大学入学共通テストの試験会場だった東大のキャンパス前で、17歳の高校生が3人を切りつけたのは、今の受験システムの息苦しさを象徴した事件でした。

尾木:彼が通っていた中高一貫校は14年連続国公立医学部医学科合格者数全国ナンバーワンで知られています。この学校には何回か講演に伺っていて、受験実績だけじゃない面をよく知っています。たとえば東日本大震災の際には金曜に生徒をバスに乗せて、日曜までボランティアに行っていたんです。

茂木:ええ? すごい。

尾木:医学部への進学が3人に1人と多いのも、こうした活動で医者になりたいという生徒が多くなっているからだと思うんです。ほかにもミュージカルの「宝塚」のパロディーで男子生徒が女装して舞台をやったり。男性でありながら女性になって、男性を演じるという難しいことをやる。

茂木:面白い。シアターエデュケーション(演劇を通じた教育)にジェンダー教育も入っている。

尾木:事件を起こした生徒は、この中高一貫校に高校から入ってきたんですね。生徒数の1割しか高校入学組はいません。この高校では特別な受験指導や授業はやらない。そんななか、高2の段階で「東大医学部は無理」となって、心が折れてしまったようです。

茂木:あの生徒も塾に通ってものすごく受験勉強して入学したんでしょうが、入ってみたら別世界だったと。

尾木:高校側は声明で、「コロナのせいで、今まで一番大事にしてきた密な体験やボランティア活動の大部分が中止となり、学校からのメッセージが届かなかった、もっとその影響に気がつくべきだった」という主旨の反省をしていました。つまり、良さがそぎ落とされた結果、単なる受験校のようになっちゃったということでしょうか。

茂木:コロナで大事なプロセスが抜けてしまったから、「東大医学部に合格する」ことに囚われた生徒が出てきてしまった。

尾木:あの高校で起きたことは他の受験校でも起きがちなので、学校側はそのリスクを自覚しないといけません。

(第2回へ続く)

【プロフィール】
尾木直樹(おぎ・なおき)/教育評論家、法政大名誉教授・1947年生まれ、滋賀県出身。早稲田大学卒業後、私立高校、公立中学の教師に。その後大学教員に転身し、合計44年間教壇に立つ。「尾木ママ」の愛称でテレビなどのメディアに出演。『「過干渉」をやめたら子どもは伸びる』(共著、小学館新書)など著書多数。

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)/脳科学者、作家。1962年生まれ。東京都出身。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。クオリア(感覚の持つ質感)を研究テーマとする。第4回小林秀雄賞を受賞した『脳と仮想』(新潮社)など著書多数。

※週刊ポスト2022年3月11日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

維新はどう対応するのか(左から藤田文武・日本維新の会共同代表、吉村洋文・大阪府知事/時事通信フォト)
《政治責任の行方は》維新の遠藤敬・首相補佐官に秘書給与800万円還流疑惑 遠藤事務所は「適正に対応している」とするも維新は「自発的でないなら問題と言える」の見解
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン
パーキンソン病であることを公表した美川憲一
《美川憲一が車イスから自ら降り立ち…》12月の復帰ステージは完売、「洞不全症候群」「パーキンソン病」で活動休止中も復帰コンサートに懸ける“特別な想い”【ファンは復帰を待望】 
NEWSポストセブン
遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
《自維連立のキーマンに重大疑惑》維新国対委員長の遠藤敬・首相補佐官に秘書給与800万円還流疑惑 元秘書の証言「振り込まれた給料の中から寄付する形だった」「いま考えるとどこかおかしい」
週刊ポスト
「交際関係とコーチ契約を解消する」と発表した都玲華(Getty Images)
女子ゴルフ・都玲華、30歳差コーチとの“禁断愛”に両親は複雑な思いか “さくらパパ”横峯良郎氏は「痛いほどわかる」「娘がこんなことになったらと考えると…」
週刊ポスト
話題を呼んだ「金ピカ辰己」(時事通信フォト)
《オファーが来ない…楽天・辰己涼介の厳しいFA戦線》他球団が二の足を踏む「球場外の立ち振る舞い」「海外志向」 YouTuber妻は献身サポート
NEWSポストセブン
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
《高市首相の”台湾有事発言”で続く緊張》中国なしでも日本はやっていける? 元家電メーカー技術者「中国製なしなんて無理」「そもそも日本人が日本製を追いつめた」
NEWSポストセブン
海外セレブも愛用するアスレジャースタイル(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
「誰もが持っているものだから恥ずかしいとか思いません」日本の学生にも普及する“カタチが丸わかり”なアスレジャー オフィスでは? マナー講師が注意喚起「職種やTPOに合わせて」
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「旧統一教会から返金され30歳から毎月13万円を受け取り」「SNSの『お金配ります』投稿に応募…」山上徹也被告の“経済状況のリアル”【安倍元首相・銃撃事件公判】
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《バリ島でへそ出しトップスで若者と密着》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)が現地警察に拘束されていた【海外メディアが一斉に報じる】
NEWSポストセブン
大谷が語った「遠征に行きたくない」の真意とは
《真美子さんとのリラックス空間》大谷翔平が「遠征に行きたくない」と語る“自宅の心地よさ”…外食はほとんどせず、自宅で節目に味わっていた「和の味覚」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 維新の首相補佐官に「秘書給与ピンハネ」疑惑ほか
「週刊ポスト」本日発売! 維新の首相補佐官に「秘書給与ピンハネ」疑惑ほか
NEWSポストセブン