2040年までに実用化へ
日本が世界をリードする老化細胞除去ワクチンの研究だが、課題も存在する。一つは、老化細胞がどれくらいたまっているかを測定する方法がまだないということ。
「がん細胞だと抗がん剤でどれくらい減ったかを測定できますが、老化細胞を測る装置はまだなく、それを開発する必要があります。実用化されれば、たとえば、40歳の割にたまっているという人には早めに打つといった判断ができます」(南野教授)
もう一つは研究予算の問題だ。臨床試験には多額の資金が必要になる。
「日本では臨床研究の資金が不足していて、治験を担う人材も少ないため、米国におけるモデルナのようにベンチャー的な製薬会社が出てきません。日本発の研究でも、海外から投資を呼び込むような道を探らなければなりません」(中西教授)
ただし、政府としても指をくわえているわけではない。中西教授は、内閣府が推進する、人々を魅了する野心的研究開発事業「ムーンショットプロジェクト」における「老化細胞を除去して健康寿命を延伸する」のプログラムマネージャーを務めていて、2040年までに「老化細胞除去治療」の実用化に向け、国家を挙げて開発を進めている。
日本は2007年に超高齢社会に突入し、65歳以上の人口は25年に約30%、60年には約40%になると予測され、世界一の高齢化率だ。そのため、実用化への期待は高い。
「日本の高年齢化社会は止めようがないでしょうが、介護の必要がない状態で寿命を全うすることは可能だと考えています。高齢でも健康で元気なら医療費や介護費の負担は増えず、高齢者の人材活用も進み、新たなイノベーションも起きるでしょう。文字通り、人生を最期まで楽しめるようになると思います」(中西教授)
「健康寿命120歳」は現実となりつつある。
※週刊ポスト2022年3月11日号