妻たちが目を覚ましDV夫から逃れるまで
綾子の場合も、隆一によって精神的に追い詰められ、行動に移せるほどの気力もなく、“思考停止状態”になっていた。そんなとき、周りに協力者がいれば、突破口につながる。夫と直接向き合うのではなく、相談所に伴うことだ。高草木さんの相談者の中にも、両親や友人が被害に気づいて、カウンセリングや相談所へ連れていき、進展したケースも多いという。
外出できない場合でも、逃げ道はある。例えば電話やメール、チャットで相談に乗ってくれる「DV相談+(プラス)」だ。「DV相談ナビ」に電話をすれば、最寄りの自治体の相談機関につないでくれる。
そうすれば、そうした機関などの支援を受けながら、内容や緊急性に応じて、住民票を移しても夫が閲覧できないようにする「DV等支援措置」の申し立てや、シェルターなど一時避難先を利用することができる。
「シェルターなどに避難できれば、居場所がわからぬよう配慮されているため夫に連れ
戻されたり危害を加えられる危険性も少なく、生活支援も受けられます。またDV加害者が被害者である妻や子どもに近寄れないように法的措置を取る『保護命令』を裁判所に申し立てるケースもあります。
綾子の場合、夫の暴力で腕に外傷を負いました。その時点で傷痕の写真や診断証明書などの証拠を携えて相談に行けば、すぐ保護命令を受けられた可能性がありました。もちろんDVの様子がわかる録音、録画、そのほか日記、夫から罵詈雑言を受けているLINEの画面があれば、それも証拠になりえます。
できれば、家を出る前に預金通帳など資産状況がわかるものもコピーや画面保存をしてください。別居したら資産状況がわかりませんし、離婚手続きの財産分与の際に、加害者側に“財産隠し”をされる可能性がありますから」(森さん)
無事に別居ができたら、弁護士などを通じて家庭裁判所に離婚調停の申し立てや、通常の社会生活を維持するために必要な生活費を求める婚姻費用の分担請求を行おう。DV被害を受けている場合、現住所を伏せたまま離婚調停を行うことが可能だ。
「すぐに離婚ができない場合は婚姻費用を一日も早く請求するようすすめています。婚姻費用は収入の多い方が少ない方へ支払う義務があり、請求した月からさかのぼって支払われます」(森さん)
自分を責めがちな人が前に進むために
だが、夫から離れてもなお、「自分に非があったのでは」と思い悩んだり、夫の“洗脳”からなかなか抜け出せない妻もいる。夫から物理的に離れて1年後にようやく目が覚めたというケースもあるという。妻が自責の念から抜け出し、前に進むにはどうしたらいいのか。