コミック『これを愛と呼ぶのなら』の綾子を事例に専門家と考える

綾子を事例に専門家と考える『これを愛と呼ぶのなら』(C)都陽子/小学館

「裁判所は昔と違って現在は、綾子のように離婚したら母子家庭になり、専業主婦ゆえに生活に困窮しそうな側から離婚を申し立てた場合は、すでに結婚は破綻していると見なし、相手が応じなくても離婚が成立しやすくなっています。

 その一方で、不倫の慰謝料は夫と浮気相手に対し多くても合計300万円程度。不倫相手だけに請求すると200万円が上限です。これは離婚や別居に至った場合の金額で、不倫は発覚したけれど夫婦関係が破綻しなかった場合には50〜100万円程度が相場です。何百万円も請求したいと相談に来られるかたがいますが、裁判になれば金額は以前に比べ、かなり低くなっているのが現実です。

 また、不倫相手に慰謝料を請求できるのは、不倫の事実と不倫相手を知った日から3年間。慰謝料を請求するなら早めに動くことをおすすめします」(森さん)

別れるか目をつぶるかその判断材料は

 夫が不倫相手とやってくるかもしれないと緊張しながらラブホテルの受付で働く綾子は、離婚する勇気もなく、悶々とした日々を送る。作中では、自分にまったく関心を持たない夫を見て、思い悩む綾子の心中がこう綴られている。

《関係を壊したいわけじゃない だからといって見て見ぬふりはできず でもわたしは つきつけられる現実が怖くて 決着をつけるのを先送りにしている》

 不倫を問い詰めたら、これまで築いてきた家庭が壊れるかもしれないと思って身動きが取れない。森さんの法律事務所にも、綾子のようにどうしたいかわからぬまま相談に訪れる妻は多いという。森さんの話。

「離婚すべきかどうかで迷っている人には、離婚後の生活費をどう確保できるか、国や自治体からの支援の対象になるか。財産分与や養育費、慰謝料の金額などについても一緒に確認し、目標が定まれば道筋を立てていきます。

 ただ、養育費ひとつとっても、子供を育てながら生活するには充分ではなく、収入が少ない女性の中には、離婚後の生活の厳しさを考えて、渋々結婚生活を続けるケースも少なくありません」

夫にモラハラやDVの気質があったら

 物語の後半では、夫・隆一のモラハラ(モラルハラスメント)気質が浮き彫りになり、綾子を殴ったり縄で縛り付けたりといった身体的暴力を伴う生々しいDVも描かれていく。

 DV被害者の相談・支援を行うフェミニストカウンセラーの加藤伊都子さんは、こう話す。

「モラハラとは、大声で怒鳴り威嚇する、無視するといった精神的DVの一種で、相手を精神的に支配して従わせようとする行為です。妻を“自分のモノ”と考える隆一は、まさに典型例です。残念ながら、こうしたタイプを結婚前から見抜くのは非常に難しい。得てしてDV加害者は外面が天下一品によいうえ、結婚後や妊娠中など妻が安定して“自分のモノ”になり、逃れられなくなったと確信した時点で、本性を現わすからです」

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