加藤さんは、「綾子は自分を責め続けていましたが、客観的に見て綾子は何も悪くない」と断言したうえで、こう話す。
「人間、誰もがより自分らしく、充実した人生を歩みたいという願望を持っています。その気持ちをDV夫は『お前が働けるわけがない』などと摘んでいく。その積み重ねで、妻はどんどん自尊心が低くなり思考停止状態に陥ってしまうわけですが、それでも、かすかな希望が絶えず目を覚ましてくる。そんな折、丁寧に扱ってくれて話を聞いてくれる人に出会うと、自尊心を取り戻し、現状から抜け出そうとする元気が湧いてきます。
本作でいえば、それが柴の存在でした。世間的には柴との関係は不倫となり、非難する人もいるかもしれません。でも、柴は綾子が前に進むために必要不可欠でした。そこを理解してくれる女性相談員や身内に協力を仰ぐと、少しずつ前に進めるのではないでしょうか」
もし夫婦関係に少しでも思うところがあれば、本作を手に取ってみてほしい。そのリアリティーのある物語と描写から、見えてこなかった問題に気づき、道が開けるきっかけとなるかもしれない。
◇森公任/弁護士。森法律事務所代表。離婚、相続、DVなどの家事事件を長年取り扱う、夫婦問題のエキスパート。近著に、『妻六法』(森元みのり氏との共著)がある。
◇加藤伊都子/フェミニストカウンセラー。大阪市の「フェミニストカウンセリング堺」や自治体の相談室で、女性を対象に、夫婦関係やパートナーからのDV被害、母娘関係のカウンセリングや支援活動を行う。
◇高草木陽光/夫婦問題カウンセラー。都内で「HaRuカウンセリングオフィス」を開き、夫婦問題、家族問題の悩み相談を受けながら、解決に向けてカウンセリングする。
※女性セブン2022年4月21日号