森さんによると、「モラハラ加害者には、医者や大企業の役員、官僚など社会的に成功している人がとても多い」という。
「彼らは信念をもって生きているわけですが、その価値観を妻に押し付けると、言い負かされることに疲れてしまった妻たちは諦めて従うようになり、モラハラになるのです」(森さん)
一方で、夫からモラハラやDVを受けていることに気づいていない妻も多いという。綾子の場合も最初、自分がDVを受けていることに気づいていなかったが、それがどんどん過激になっていき、ようやく夫との夫婦生活はすでに壊れていたことに気づく。
加害行動が激化するきっかけは、ちょっとした変化だと加藤さんは話す。
「加害者は、“自分のモノ”としておとなしく従属していると思えているときはまったく関心を示さないのに、妻が自分のもとから離れる気配を見せると、俄然執着し始めます。隆一の場合も、綾子が外で男性と密会しているのを知ってから、綾子のスマートフォンにGPSアプリを入れて行動を監視するようになりました。そして身体的DV、さらには嫌がる綾子に性行為を強要する性的DVへとエスカレートしていったのはそれを表しています」
では夫にモラハラやDVの気質があると気づいたら、どうすべきか。話し合いをすれば、相手は変わるのか? 高草木さんは否定的だ。
「モラハラやDVの気質を持っている人は、何を言っても聞こうとしない、否定する、自分にとって好都合なことしか提案しません。そんな人とは、2人きりで話し合うことは避けるべき。綾子のように話そうとしても言葉をのみ込んでしまったり、ましてや夫に“洗脳”されてしまっている状態では、言いくるめられて終わりです。
もしどうしても話したいことがあるなら、親族や共通の友人など第三者のいる場で、切り出しましょう。特に、本作の隆一のような、いわゆる“DV夫”は、世間体を気にするので話し合いに応じようとすることもあります。私の相談者で、『カウンセラーに相談したいことがあるんだけど、私はうまく話せないからついてきてほしい』と言って夫を私のもとに連れてきたケースもありました。
モラハラ夫に対峙するには言葉の選び方から入念に準備する必要があるのです」
森さんは第三者の選び方にも注意を促す。
「彼らは、自分はよかれと思ってやっているのでモラハラをしていることに気がついていません。例えば親が妻を助けようと間に入ると『自分と妻を引き離して自分の手元に置いておきたいから親が勝手なことを吹き込んだ』と言って逆恨みする人が少なくありません。私たちに対して『夫婦仲がよかったのに、弁護士が入ったせいで悪化した』と言ってくる人もいるぐらいですから、なるべく専門家に依頼した方がいいでしょう」