国内

池袋暴走死傷事故から3年「ふたりに土下座して謝りたい」

事故から3年を前に、家族3人が暮らした自宅で取材を受けてくれた松永拓也さん。

事故から3年を前に、家族3人が暮らした自宅で取材を受けてくれた松永拓也さん。

 2019年4月19日に起きた池袋暴走死傷事故から3年が経つ。会社員の松永拓也さん(35)は3年前のこの日突然、妻の松永真菜さん(当時31才)と娘の莉子さん(同3才)を失い、被害者遺族となった。

 家族を亡くした深い悲しみを抱えながらもメディアやSNSで再発防止に向けて訴え続けている。誹謗中傷や二次被害にも苦しめられるが、松永さんの意志は揺るがない。

 その強い「想い」はどこから生まれるのか。刑事裁判が昨年9月に終わり迎える初めての命日。家族3人が暮らした家で松永拓也さんに話を聞いた。

 * * *

 部屋の隅には、片づけ途中の段ボールが置かれているが、リビングやキッチンは事故前とほぼ変わらない。莉子ちゃんのおままごとキッチンや絵本の棚はそのままで、壁には莉子ちゃんの描いた絵が貼られている。

誕生日プレゼントだったおままごとキッチン。「莉子は『やったあ!』って喜んで、もう毎日これで遊んで、おもちゃの料理を僕にも作ってくれました。真菜は料理が上手で、おやつも毎日手作りしていたので、莉子は一緒に手伝ったりしていて興味があったんでしょうね」(松永さん)

誕生日プレゼントだったおままごとキッチン。「莉子は『やったあ!』って喜んで、もう毎日これで遊んで、おもちゃの料理を僕にも作ってくれました。真菜は料理が上手で、おやつも毎日手作りしていたので、莉子は一緒に手伝ったりしていて興味があったんでしょうね」(松永さん)

 部屋に入らせていただいてまず思ったこと、それは、家族があたたかく幸せに丁寧な暮らしをしていた気配が今も感じられるのだ。

「だからこそ、ここに来るのが最初はきつくて。ひょこって、真菜と莉子が出て来るんじゃないかなって。今でも片づけをしながら洋服やおもちゃとか見ると、『あそこに行ったとき着てたな』『これ、こうやって遊んでたな』って全部思い出すので、それはしんどいですけど・・・・・・。最近は、この家自体は、いると落ち着くようになりました」(以下カッコ内、松永さん)

事故の8日前に描かれた莉子ちゃんの絵は壁に貼られたままだ。

事故の8日前に描かれた莉子ちゃんの絵は壁に貼られたままだ。

「H31.4.11(3才3か月)水族館で見たカメ」と書き添えられている。「真菜は毎回、こうやって記録して、『上手上手!』って褒めて貼り出していました。莉子の自己肯定感を高めるとか、そんな教育的な考えがあったんじゃないでしょうか」

「H31.4.11(3才3か月)水族館で見たカメ」と書き添えられている。「真菜は毎回、こうやって記録して、『上手上手!』って褒めて貼り出していました。莉子の自己肯定感を高めるとか、そんな教育的な考えがあったんじゃないでしょうか」

水族館で楽しんでいた莉子ちゃん。帰ってからカメを描いた。

水族館で楽しんでいた莉子ちゃん。帰ってからカメを描いた。

 時が経つごとに、愛するふたりの命がなくなったことへの受け止め方も変わってきたという。

「1年目の命日は、事故の起こった12時23分に現場で手を合わせたとき、この時間にふたりは亡くなったんだって実感し、涙が出てきました。『ああ、自分は無意識のうちに自己防衛のために考えないようにしていたんだな』と気づいたんです。

 2年目はそれとはやっぱり違っていて、ただただ悲しかった。

 3年目のいまは、刑事裁判が終わってから初めての命日です。どういう心情になるのかはわからないけれど、できる限り穏やかな気持ちで迎えられたらいいなと思います」

「時間が解決するよ」と言う人もいるが、心が事故前に戻り回復することは絶対にないと松永さん。松永さんが副代表理事を務める『一般社団法人 関東交通犯罪遺族の会 あいの会』の代表理事・小沢樹里さんは、よくこんな例えをするという。

 A4の用紙が心だとしたら、事故や犯罪被害に遭うと、1回、ぐしゃっとつぶれる。その後シワを伸ばしていくのが、死別の苦しみと向きあうグリーフ(哀悼)という作業。でも、いくら伸ばしてもやっぱり元の用紙には戻らない。

「確かにそうだなと思います。少しずつシワが伸びてきているのかなという感覚はありますね。日にもよるんですが。昨日は慰霊碑のところに行って、一人で落ち込んでしまったり・・・・・・。ふたりは、僕が前を向いて歩いていくことを望んでいるだろうから、できるかぎり前を向いて歩いていけたらなと思っています」

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン