国際情報

【現地ルポ】報道陣のために遺体の収納袋を開いた「ウクライナ人たちの思い」

ブチャにある教会の裏手に並んだ遺体

ウクライナ・ブチャの聖アンドリュー教会の裏手には遺体が安置されている袋が置かれていた

 ロシアによるウクライナ侵攻の開始から2か月あまり。ウクライナは必死の抵抗を続けているが、ロシアは東部ドンバス地方での攻勢を強めており、支配地域を拡大しつつある。そんな中で、ウクライナ人たちは世界から訪れる報道陣に現実を知ってもらおうと奮闘していた──。現地を取材するノンフィクションライターの水谷竹秀氏がリポートする。
 * * *
 その日は雨が降っていた。大勢の報道陣が現場に到着すると、遺体が入った黒い収納袋がぬかるんだ地面に十数体並んでいた。しかも収納袋はファスナーが開いたままで、遺体の腹部や足などの部位が丸見えである。

 ここはウクライナの首都キーウ近郊の町、ブチャ。人口約4万人のこの町は3月、ロシア軍に占拠され、多くの民間人が虐殺されたと言われる。その遺体の一部が、ブチャ中心部の聖アンドリュー教会の裏手に集団埋葬されていた。すでにキーウ入りしていた私は4月8日、ウクライナ政府主催のメディアツアーに参加し、この現場を再訪していた。間もなく、キーウ州警察代表のネビトフ氏が報道陣の前に現れた。隣には英語が流暢な女性の通訳者付きだ。欧米メディアに配慮してのことだろう。ネビトフ氏が力を込めて言った。

「ここに40体の遺体が集団埋葬されている。大半が民間人で、遺体には銃弾の痕が残っていた。これはロシア軍による明らかなジェノサイドだ」

 取り囲んでいた報道陣は、100人程度はいたと記憶している。ロシアに一方的に侵攻されたウクライナ側からすれば、被害の実態を世界中に知らしめる絶好の機会だ。

 後に、同じ現場にいた日本の報道関係者から、こんな話を聞いた。

「私たちが現場に到着した時、遺体の収納袋は閉じられていたんです。ところがしばらくしたら、開いていたんですよ」

 私が見た時はすでに開いていたから、最初の閉じられた状態には気づかなかった。もしこの言葉の通りであれば、ウクライナ側は、大勢の報道陣を前に、意図的に収納袋を開けたことになる。その行為に、ウクライナ側の思いの強さを感じずにはいられなかった。

 これは政府だけではない。前線で戦っている国軍兵士はもとより、スポーツ選手、アーティスト、経営者、一般市民を含め、ボランティアとして働く彼らの眩しい姿を目の当たりにすると、ウクライナ国民のほぼ全員が同じ思いを共有しているように見えた。

「ウクライナのため」に何かをしたいという信念──。私が取材で関わったウクライナ人たちからも、そんな強い思いを感じる出来事が何度かあった。

関連記事

トピックス

小磯の鼻を散策された上皇ご夫妻(2025年10月。読者提供)
美智子さまの大腿骨手術を担当した医師が収賄容疑で逮捕 家のローンは返済中、子供たちは私大医学部へ進学、それでもお金に困っている様子はなく…名医の隠された素顔
女性セブン
吉野家が異物混入を認め謝罪した(時事通信、右は吉野家提供)
《吉野家で異物混入》黄ばんだ“謎の白い物体”が湯呑みに付着、店員からは「湯呑みを取り上げられて…」運営元は事実を認めて「現物残っておらず原因特定に至らない」「衛生管理の徹底を実施する」と回答
NEWSポストセブン
北朝鮮の金正恩総書記(右)の後継候補とされる娘のジュエ氏(写真/朝鮮通信=時事)
北朝鮮・金正恩氏の後継候補である娘・ジュエ氏、漢字表記「主愛」が改名されている可能性を専門家が指摘 “革命の血統”の後継者として与えられる可能性が高い文字とは
週刊ポスト
英放送局・BBCのスポーツキャスターであるエマ・ルイーズ・ジョーンズ(Instagramより)
《英・BBCキャスターの“穴のあいた恥ずかしい服”投稿》それでも「セクハラに毅然とした態度」で確固たる地位築く
NEWSポストセブン
箱わなによるクマ捕獲をためらうエリアも(時事通信フォト)
「箱わなで無差別に獲るなんて、クマの命を尊重しないやり方」北海道・知床で唱えられる“クマ保護”の主張 町によって価値観の違いも【揺れる現場ルポ】
週刊ポスト
火災発生後、室内から見たリアルな状況(FBより)
《やっと授かった乳児も犠牲に…》「“家”という名の煉獄に閉じ込められた」九死に一生を得た住民が回想する、絶望の光景【香港マンション火災】
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン