「呼び出し」の演出がポップな理由
まずマジメな印象の強い『平成教育委員会』ではなく、笑いを散りばめた『めちゃイケ』の抜き打ちテストに近い構成・演出が選ばれたのは、「気楽に見たい」「笑いありき」と言われる現在の視聴者にフィット。「こんな学校や先生なら自分も通いたい」と思わせる楽しげなムード作りができていました。
ただ、現在はかつてのような「おバカタレントブーム」はない上に、「勉強ができなくてもいい」「できないことを笑うのはイジメ」「恥をかかせるのはよくない」などの考え方に変わりました。つまり、『めちゃイケ』のような強烈なイジリ方をするほど、「何が悪いのか」「イジメだ」などと批判を受けやすく、視聴者の関心は薄れる可能性が高いのです。
だからこそ制作サイドは、赤っ恥の解答をさらす理由に「『悔しさをバネに成長してほしい』というタナカ先生の熱い思い」を挙げていました。今後、放送が進むにつれて、さらに「熱さ」「優しさ」を感じさせ、時には成長した姿を喜ぶようなシーンが求められていくでしょう。また、「全部ダメではなく、ここは素晴らしい」という表現の仕方も増えていくのかもしれません。
もう1つのポイントは、番組名になっているクライマックスの「呼び出し」。この行為自体が「ハラスメント」や「体罰」を思わせるものだけに、初回放送ではそれなりの工夫が見られました。
「タナカ先生が最下位の生徒をバイクの後ろに乗せて説教をする」というシチュエーションなのですが、その際に強烈な風と大量の紙吹雪が生徒だけでなく、むしろタナカ先生のほうに浴びせられたのです。あえてチープな合成を使ったポップな演出も含め、ハラスメントや体罰を感じさせないための演出であり、今後はいくつかのバリエーションを見せて明るく笑わせてくれるのではないでしょうか。
令和版のアップデートという意味で、もう1つ期待されるのが生徒役のキャスティング。芸人、アイドル、俳優などはもちろん、ユーチューバー、インスタグラマー、ティックトッカーなどから、新たなスター候補を生み出していけるのか。視聴者に恥を恥と思わせない明るさを持つ人材を各界からそろえられたら、それが『呼び出し先生タナカ』のオリジナリティにつながっていくでしょう。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。