東南アジア・欧州5カ国歴訪で屋外での着用義務が解除された英国を訪問した岸田文雄首相。マスク着用姿は見られなかった(PA Images/時事通信フォト)

東南アジア・欧州5カ国歴訪で屋外での着用義務が解除された英国を訪問した岸田文雄首相。マスク着用姿は見られなかった(PA Images/時事通信フォト)

 この「空気」を明確に言ってくれたのは彼だけだったが、誰もが言わずともこの「空気」を気にしていたのは明白だ。「誰かに指摘されたら」という意味合いばかりを耳にした。思えばこの2年、コロナ禍のバッシングはライブハウス、パチンコ屋、夜の街、旅行業者(Go To)、居酒屋、若者、ワクチン未接種者(義務ではない)と遷り、いまは「マスクしない人」なのだろう。重ねるが、日本政府はマスクを義務化していないし屋外、ましてや人の密集していない広い場所や運動中のマスクを強要もしていない。それどころか「暑ければ外せ」である。

 日本は空気(いわゆる世間、他人の目、「同調圧力」とも)に支配される国であるという山本七平の『「空気」の研究』はコロナ禍にもっと見直されてもいいと思うが、岸田首相ですら、遊説中はマスクをしないほとんどの国の「空気」を読んでマスクをせず、国内ではマスクをしている。それが悪いとかではなく、国家権力者すら「空気」というこの国の本当の支配者には逆らえないのだなあと思う。

「あなたはマスクしないのね、私はするわ」「私はマスクしないけど、あなたはするのね」という「個」ではなく「私はマスクをしてるんだからお前もしろ」「私はマスクをしないからお前もするな」と他人に強要するこの「全体」の空気、日本は無宗教と嘯く人がいるが「空気教」は絶大である。そして御本尊「空気様」が真に日本を統治する。またその「空気」を目的外利用する輩もいる。マスクに限らず、「その場の空気」「空気読め」など思い当たる方も多いだろう。今年の博多どんたくで話題となった穴あきマスクによる吹奏楽団の路上演奏ではないが、もはやマスクが目的になっている。マスクが主目的で、もはや本質は関係なくなっている。参議院選挙を7月に控え、政治家すら与野党とも日本を支配する空気という「絶対権威」(山本七平)には及び腰だ。

 マスクを義務化した覚えもない(というスタンス)日本政府は5月12日、「屋外で2メートル以上の距離を確保できている場合はマスクを外すことを推奨している」というこれまでの通達を再度、松野博一官房長官の会見として述べた。しかし相変わらず外では「マスクしろ」と言われるし、世間では国なんかより空気が絶対になっている。厚生労働省の専門家組織座長、脇田国立感染症研究所長がその前日の11日、「屋外で距離をとって会話もないところでマスクをする必要はない」と述べたにも関わらずだ。マスクに関する初動の不手際とそれを反省もせず放置した結果でもあるが、だからこそ日本政府がもっと強いメッセージを出すべきだろう。極端な話ではなく、したい人はすればいいし、したくない人はしなくていい。世界中で通用している、ごく当たり前の話である。

 夏はもうすぐそこ。暑くなくとも尋常でない湿度の日本。現場も子供たちも、心身ともに限界である。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。 

関連記事

トピックス

2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
卓球混合団体W杯決勝・中国-日本/張本智和(ABACA PRESS/時事通信フォト)
《日中関係悪化がスポーツにも波及》中国の会場で大ブーイングを受けた卓球の張本智和選手 中国人選手に一矢報いた“鬼気迫るプレー”はなぜ実現できたのか?臨床心理士がメンタルを分析
NEWSポストセブン
数年前から表舞台に姿を現わさないことが増えた習近平・国家主席(写真/AFLO)
執拗に日本への攻撃を繰り返す中国、裏にあるのは習近平・国家主席の“焦り”か 健康不安説が指摘されるなか囁かれる「台湾有事」前倒し説
週刊ポスト
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン
パーキンソン病であることを公表した美川憲一
《美川憲一が車イスから自ら降り立ち…》12月の復帰ステージは完売、「洞不全症候群」「パーキンソン病」で活動休止中も復帰コンサートに懸ける“特別な想い”【ファンは復帰を待望】 
NEWSポストセブン
「交際関係とコーチ契約を解消する」と発表した都玲華(Getty Images)
女子ゴルフ・都玲華、30歳差コーチとの“禁断愛”に両親は複雑な思いか “さくらパパ”横峯良郎氏は「痛いほどわかる」「娘がこんなことになったらと考えると…」
週刊ポスト
話題を呼んだ「金ピカ辰己」(時事通信フォト)
《オファーが来ない…楽天・辰己涼介の厳しいFA戦線》他球団が二の足を踏む「球場外の立ち振る舞い」「海外志向」 YouTuber妻は献身サポート
NEWSポストセブン
海外セレブも愛用するアスレジャースタイル(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
「誰もが持っているものだから恥ずかしいとか思いません」日本の学生にも普及する“カタチが丸わかり”なアスレジャー オフィスでは? マナー講師が注意喚起「職種やTPOに合わせて」
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「旧統一教会から返金され30歳から毎月13万円を受け取り」「SNSの『お金配ります』投稿に応募…」山上徹也被告の“経済状況のリアル”【安倍元首相・銃撃事件公判】
NEWSポストセブン