「エネルギー資源の大半を輸入に頼っているわが国としては大変厳しい決断ではあります」。岸田文雄・首相は5月9日、G7首脳会談後に「ロシア産石油の原則禁輸」を発表すると、そう語って表情を曇らせた。
日本の石油は約9割が中東から輸入され、ロシア産の比率は3.6%とシェアはそれほど大きくないように見える。だが、量にすると1日あたり9万バレル=約1431万リットルが日本に入ってこなくなるのだ。
資源エネルギー庁で電気・ガス政策を担当した元経産官僚の政策アナリスト・石川和男氏は「影響は小さくない」と指摘する。
「日本の場合、経済規模が大きいから3.6%でも物流に大きな打撃を与える。萩生田光一・経済産業相は『石油は争奪戦になる』と言っていたが、日本だけでなく同様に禁輸措置を取るEU(欧州連合)各国もロシア以外の輸入先を確保しようとするので石油価格は確実に上がる。しかも、コロナが徐々に収まりつつありこれから経済回復に向かえば陸運、空運、海運が活性化し、燃料の需要が増えてくる。
現在、政府は補助金でガソリン、軽油、重油の値上げを抑えていますが、長くは続かないでしょう。いずれガソリン価格は1リットル200円を超える可能性もある。そうなれば真っ先にトラック輸送など物流が停滞すると考えられます」
物流コストがハネ上がれば、コンビニなど店舗への商品供給が遅れがちになり、ネット販売や宅配便などの料金大幅値上げや配達に影響が出ることが予想される。
もっと深刻なのはロシアからの禁輸措置が「天然ガス」「石炭」へと及んだ時だ。日本は天然ガスの8.8%(年657万トン)、石炭は11%(年1973万トン)をロシアから輸入しており、依存度は石油よりはるかに高い。
現実に経済制裁で先行するEUは4月にロシア産石炭の輸入停止で合意。さらにEUのミシェル大統領は日経新聞のインタビュー(5月10日付)で、〈ロシア産化石燃料への依存を終わらせる〉と天然ガスの輸入停止にまで踏み切る考えを表明した。
日本も近く石油に続いてロシア産天然ガスと石炭の禁輸を迫られることは間違いない。