大人が真剣にふざけると傑作が完成する
ドラマの見どころはたくさんありすぎたのだが、そのうちいくつか私が気になったところを挙げていこう。
まずは男性妊娠の設定が細かい。ドラマの世界で桧山は特殊なわけではなく、数は少なくとも、昔から男性は妊娠することになっている。昭和から平成にかけて特殊な扱いをされていた彼らも、令和になると少しずつ認められるようになっていく。「少数派への冷たい視線が時代を追うごとに変化する」というリアルな設定が、「ひょっとしたら男も妊娠するのでは……」と見る側を真剣にさせていく要素のひとつなのだろう。
ドラマ内ではSNSのコミュニティで出会った“男性妊夫”同士がオフ会を開いている場面がたびたび登場するが、これもまた現代感を加速させる。
医療面の設定も細かい。医者が「男性は筋肉が多いから胎動を感じるのが遅いんですよ」と、当たり前のようにアドバイス。詳細は控えるが、桧山の友人(男性)の妊娠中の悲しい事件も勃発する。その原因から発生までの経緯が完璧すぎて、また、私の脳が迷い始めていたほど。
昔からある男女逆転のSF作品の枠に収まらない威力を感じる。Netflixオリジナルという、自由な表現が可能になるスペースで作られているからこそ実現した、熱のこもったドラマではないか。大の大人が真剣にふざけると、傑作が誕生するのだと思い知らされた。撮影現場の状況はいざ知らず、ではあるが、キャストもスタッフも、きっと作っていて楽しかっただろうと想像した。
今まで私は地上波ドラマ一辺倒のオタクだった。サブスクオリジナル作品に大して興味が湧かなかったけれど、『ヒヤマケンタロウの妊娠』をきっかけに、少し見解が変わった。また見るものが増えて、時間がなくなってしまいそうだ。これは困った。
【プロフィール】
小林久乃(こばやし・ひさの)/エッセイ、コラムの執筆、企画、編集、プロモーション業など。出版社勤務後に独立、現在は数多くのインターネットサイトや男性誌などでコラム連載しながら、単行本、書籍を数多く制作。著書に、30代の怒涛の婚活模様を綴った『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)、『45センチの距離感 -つながる機能が増えた世の中の人間関係について-』(WAVE出版)がある。静岡県浜松市出身。Twitter:@hisano_k