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斎藤工主演『ヒヤマケンタロウの妊娠』が、男女逆転SFの枠に収まらない理由

“男性妊夫”を演じた(時事通信フォト)

“男性妊夫”を演じた(時事通信フォト)

 今年の米アカデミー賞では10作品がノミネートされるなど、動画配信サービスNetflixオリジナル作品が映像界を席巻している。『愛の不時着』、『全裸監督』といった話題作が目白押しの連続ドラマも然り。そうしたなか、ドラマオタクのエッセイスト・小林久乃氏は、今年4月から配信が始まった『ヒヤマケンタロウの妊娠』に注目する。小林氏が綴る。

 * * *
 サブスク配信中のドラマに、地上波にはなかった一筋の可能性を感じた。その作品が話題の『ヒヤマケンタロウの妊娠』である。漫画原作である本作、タイトルの通り、男性が妊娠、出産をする物語だ。

 生殖機能としては女性が妊娠するのが当たり前。ただ、働きながら出産・育児をする社会システムがこの10年間で変化しているように思う。父である男性の育休取得が推奨されるなど、いわゆる男尊女卑的な社会通念は古いものとなり、女性の出産における身体的リスクも見直されつつあるのだろう。とはいえ、男性側の妊娠・出産・育児への理解や参加が総じて乏しいのも事実。制作側には、この状況に対して一石を投じる意図があるのだろうか。そんな疑問を持ちながら見ていたが、物語にはもっと壮大なロマンが隠されていたのだ。

“男性妊娠”をリアルに感じてしまう

 全8話の『ヒヤマケンタロウの妊娠』、大まかな物語はこうだ。

 広告代理店に勤務する桧山健太郎(斎藤工)の仕事は、順風満帆。結婚するつもりは毛頭なく、女性とは適度に遊んでおけばいいという(昭和表現でいう)プレイボーイだ。要は女性の敵であり、男性から見ると腹立ちの対象。しかも見た目もいい。

 そんな桧山がまさかの妊娠をする。突然の吐き気、糖分への強烈な欲求、“母乳”漏れ……そんな妊娠の生理現象が次々と彼を襲う。現実にはあり得ない、男性が妊娠するという設定なのだが、1話、また1話と物語を追っていくうちに「男性も、ひょっとしたら妊娠することがあるかもしれない」という迷宮に脳が迷い込んでしまう。そんなドラマだ。

 1994年にアーノルド・シュワルツェネッガー主演の『ジュニア』という映画があったことを思い出した。内容は似ていて、婦人科医学のアレックス博士(シュワルツェネッガー)が新薬の実験によって、妊娠、出産をする。なんともアメリカンコメディでいいなあと当時は笑って見ていた。でもそれから20数年後に日本でも同じような展開が見られるとは思わなかった。

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