スポーツ

1950~60年代プロ野球“絶対的エース”の凄み 投手が野手にサイン出し、打者を手玉に

昔の絶対的エースはすごかった(イメージ)

昔の絶対的エースはすごかった(イメージ)

 ロッテの佐々木朗希が完全試合を達成し、ソフトバンクの東浜巨はノーヒットノーランを達成。今季は「投高打低」と言われるが、近年のエースは中6日が当たり前で、球数も100球程度で交代してしまい、どこか物足りなさを感じているファンもいるに違いない。かつてのプロ野球の「絶対的エース」の活躍ぶりは、今では考えられないものだった。(文中敬称略)【全3回の第3回。第1回から読む

 1950~60年代の各球団のエースでは、通算400勝の金田正一や同350勝の米田哲也のように“太く長く”の活躍を見せ、もはや塗り替えられようのない記録を打ち立てた投手たちがいる。1953年にプロ入りし、阪神、ロッテなどで通算320勝をあげた小山正明もその一人だ。当時の阪神で捕手として活躍した辻恭彦はこう言う。

「新人だった私に“構えたミットを動かすな”と言い、その通りにしていると本当に寸分の違いなくボールがきた。あと、試合中は小山さんから内野手にサインが出る。右打者にパームボールを投げると、引っ張ってサードゴロになることが多かったから、右ポケットを触ってサードやショートに教えるんです。それで本当にゴロの凡打になる。まさに打者を手玉に取るエースでしたね」

 1950年代の阪神に投手として在籍し、その後、球団の裏方として寮長などを務めた梅本正之も、「当時の阪神には小山、そして村山実という本格派エースが2人いた。この2人が投げるゲームは落とせないという空気がチームに生まれた」と話している。長く勝ち星を積み上げたからこそ、逸話が語り継がれる。

 一方で、入団後2年間で65勝を上げるも、実働5年で散った権藤博のように“太く短く”の活躍で、通算記録では歴代上位に入らないエースたちもいる。「怪童」の異名を取り、剛速球が武器だった東映・尾崎行雄はその一人だろう。入団1年目の1962年に20勝9敗の成績をあげ、リーグ初優勝に貢献。5年間で98勝をあげたが、右手にマメができる体質で肩を痛め、その後の6年間では9勝しか挙げられなかった。

 1955年に東映に入団した土橋正幸も“短い輝き”を見せたエースだった。ちぎっては投げのハイピッチ投球で知られ、開花した3年目からの7年間だけで147勝を記録したが、肩痛や筋断裂、首痛など故障が相次ぎ、プロ10年目からは3年間で計10勝しかあげられずに引退した。記録ではなく記憶に残るエースたちだが、権藤は現役生活を総括して、こんな言い方をする。

「誰だって、最初から短期間で燃え尽きようと思ってなんてやりませんよ。無理をしたつもりなんてない。それが当たり前だっただけです」

 現代では、投手を故障から守るために100球での降板や中6日のローテーションが“当たり前”になった。時代が違うのである。ただ、それでも言いたい。昔の絶対的エースは、もっともっとすごかったぞ、と。

(了。第1回から読む

※週刊ポスト2022年6月10・17日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

元交際相手の白井秀征容疑者(本人SNS)のストーカーに悩まされていた岡崎彩咲陽さん(親族提供)
《川崎・ストーカー殺人》「悔しくて寝られない夜が何度も…」岡崎彩咲陽さんの兄弟が被告の厳罰求める“追悼ライブ”に500人が集結、兄は「俺の自慢の妹だな!愛してる」と涙
NEWSポストセブン
グラドルから本格派女優を目指す西本ヒカル
【ニコラス・ケイジと共演も】「目標は二階堂ふみ、沢尻エリカ」グラドルから本格派女優を目指す西本ヒカルの「すべてをさらけ出す覚悟」
週刊ポスト
阪神・藤川球児監督と、ヘッドコーチに就任した和田豊・元監督(時事通信フォト)
阪神・藤川球児監督 和田豊・元監督が「18歳年上のヘッドコーチ」就任の思惑と不安 几帳面さ、忠実さに評価の声も「何かあった時に責任を取る身代わりでは」の指摘も
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン
赤穂市民病院が公式に「医療過誤」だと認めている手術は一件のみ(写真/イメージマート)
「階段に突き落とされた」「試験の邪魔をされた」 漫画『脳外科医 竹田くん』のモデルになった赤穂市民病院医療過誤騒動に関係した執刀医と上司の医師の間で繰り広げられた“泥沼告訴合戦”
NEWSポストセブン
被害を受けたジュフリー氏、エプスタイン元被告(時事通信フォト、司法省(DOJ)より)
《女性の体に「ロリータ」の書き込み…》10代少女ら被害に…アメリカ史上最も“闇深い”人身売買事件、新たな写真が公開「手首に何かを巻きつける」「不気味に笑う男」【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
2025年はMLBのワールドシリーズで優勝。WBCでも優勝して、真の“世界一”を目指す(写真/AFLO)
《WBCで大谷翔平の二刀流の可能性は?》元祖WBC戦士・宮本慎也氏が展望「球数を制限しつつマウンドに立ってくれる」、連覇の可能性は50%
女性セブン
「名球会ONK座談会」の印象的なやりとりを振り返る
〈2025年追悼・長嶋茂雄さん 〉「ONK(王・長嶋・金田)座談会」を再録 日本中を明るく照らした“ミスターの言葉”、監督就任中も本音を隠さなかった「野球への熱い想い」
週刊ポスト
12月3日期間限定のスケートパークでオープニングセレモニーに登場した本田望結
《むっちりサンタ姿で登場》10キロ減量を報告した本田望結、ピッタリ衣装を着用した後にクリスマスディナーを“絶景レストラン”で堪能
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん(時事通信フォト)
笹生優花、原英莉花らを育てたジャンボ尾崎さんが語っていた“成長の鉄則” 「最終目的が大きいほどいいわけでもない」
NEWSポストセブン
日高氏が「未成年女性アイドルを深夜に自宅呼び出し」していたことがわかった
《本誌スクープで年内活動辞退》「未成年アイドルを深夜自宅呼び出し」SKY-HIは「猛省しております」と回答していた【各テレビ局も検証を求める声】
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん
亡くなったジャンボ尾崎さんが生前語っていた“人生最後に見たい景色” 「オレのことはもういいんだよ…」
NEWSポストセブン