福島での検査で30万人から約300人の甲状腺がんがみつかったように、無作為の検査をすれば99.9%の人は問題なしと診断されて「安心」を得られるかもしれないが、甲状腺がんがみつかった0.1%の人は極めて大きな不利益を被ることになるのだ。

5月21日放送の「原発事故と甲状腺がん」が批判を浴びたのはなぜか(Tverより)

特集「原発事故と甲状腺がん」には事実誤認もあった(TVerより)

「誤報」の非難も

 また、前述の『報道特集』が「福島県は過剰診断だと主張している」と伝えたところ、ネットでは「誤報だ」という批判が相次いだ(翌週5月28日の放送で訂正)。

 県が過剰診断だと主張している証拠として、番組では「県民健康調査における中間取りまとめ」(2016年3月)にある〈将来的に臨床診断されたり、死に結びついたりすることがないがんを多数診断している可能性が指摘されている〉という一文をクローズアップして映していた。その一文のあとには、過剰診断という指摘があるが、現段階では被ばくの影響を完全には否定できないので、検査による不利益を伝えながら、今後も〈継続していくべきである〉と書かれている。そこまで読まなかったのだろうか。県が主体で実施している検査で過剰診断だと考えているのなら、とっくに検査をやめているはずで、つじつまも合わない。

「いくら過剰診断だと指摘しても、県は検査をやめようとしない。事故直後で混乱している時期に、『甲状腺がんは増えていないから大丈夫だよ』と言うために検査を始めてしまったのは、やむを得なかったと思います。

 しかし、予想外に多数の甲状腺がんがみつかって混乱を招いた後、検査は過剰診断を招くだけで、調査する意味もないことがわかったわけです。仮に放射線被ばくが原因だったとしても、子供の小さながんを検査でみつけだすのはデメリットしかないことに変わりはないので、もう検査はやめるべきです」(高野医師)

 県による甲状腺検査はあくまで任意なので、「検査を受けない」という選択肢はある。ただ、学校での集団検診は同調圧力を生む懸念が拭えない。福島県県民健康調査課に訊いたところ、現在も学校での集団検診は実施していて、検査自体も「2年ごとに検討委員会を開いて実施を決めています。次回については未定です」という。

 原発事故がなければ、甲状腺検査が始まることはなかった。検査で甲状腺がんがみつかり、手術をした後も心身の不調に苦しむ訴訟の原告らが被害者であることは間違いなく、何らかの補償があってしかるべきである。しかし、問題の本質を見誤れば、救われるべき人も救われなくなる。“弱者に寄り添う”だけでは、メディアの役割は果たせない。【後編、了。前編から読む】

●取材・文/清水典之(フリーライター)

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