馬術の技量は俳優によって差がある。だが、実際に武将を演じる際はそれを自在に乗りこなしているように見えなければならない。そのために、どのような指導をしているのか。映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、現在放送中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を含め多くの映像作品で馬術指導を担当するラングラーランチの田中光法氏に話を聞いた。
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田中:しっかり乗れる人ほど、絶対に「あらかじめ乗っておきたい」と言うんです。僕らのように技術がある人をもってしても、初対面の馬で演じてくれと言われたら「え、どういう馬なの? まず乗らせてください」と言います。乗れる人ほど、怖さを知っているんです。
ですから「いや、おれはできるから練習はいらない」と言う人はまだ中途半端なんです。僕がNHKに伝えたのは「一度でいいから事前に役者には馬に乗ってもらい、その人がどのぐらいの技量があるのか僕に判断させてほしい」ということです。馬にまたがった瞬間に、その人の乗れる/乗れないは分かる。動く前に分かります。その上で「もう少し練習しましょう」などと頼みます。
そうやってクランクイン前に役者に練習してもらうようにしたのは、大河ドラマ『武田信玄』(1988年)が最初です。「うちのクラブでちゃんと練習をさせてあげてください。そうでないと危ないですよ」とNHKに言いました。
──あの作品は上田原や川中島など、大掛かりな騎馬合戦のシーンも多いですからね。
田中:最近では大河の主役になる役者さんは、真面目な方だと一年前から練習を始めます。『真田丸』(2016年)の堺雅人さんも、今年の小栗旬さんもそうです。来年演じる松本潤さんも去年から練習に来ています。
練習しているうちに、みんな乗馬が楽しくなっていくんです。小栗さんはすごく進歩したので、当然本番では馬に乗ってもNGを出さない。でも、本人はもっと馬に乗っていたいから「田中さん、NG出してもいい?(笑)」と言うくらい、馬に乗るのが楽しくなっています。NGを出せば、それだけ馬に乗っていられますからね。その余裕は、当然のように画に出てくるんです。
──馬を自然に乗りこなせれば、芝居もしやすいですし、何より武将としてリアリティが出ます。
田中:そうなんです。馬の上でちゃんと余裕がある人なら、演技中も無意識で馬に乗っているので演技に集中できますが、そこまでいってない人だと、馬にも神経がいってしまう。演技に集中するためにも、馬とできるだけいっぱい練習しておく必要があるんですよね。