26歳女性監督は、「実写官能シーン」にどう向き合ったか
演出面の工夫はどうだったのか。チーフ監督は、4年前に映画『真っ赤な星』で劇場デビューをした新進気鋭の26歳、井樫彩氏だ。
そもそも、漫画の実写化についてどう思うか聞いてみると、井樫監督は「この仕事をする前は、『なんだよこれ!』って思うこともいっぱいあったんですよ」と豪快に笑い飛ばす。しかし、実際に何本か原作付きの映像化を手がけると、映像だからこそ可能なアプローチがあることを知った。
「実写化でいちばん大きいのは、やっぱり生身の人間が演じるということ。人間がリアルに泣いて笑って、紆余曲折して…といった“生々しい”姿を目にすることで、揺さぶられる部分があると思います。具現化されることで、深く伝わるものもあると思う。もちろん、漫画には漫画だからできる良さがあって、実写でそのままやると、ただの再現VTRか、突飛なコスプレ大会みたいになってしまう。そのさじ加減は難しいところです」(井樫監督)
そんな監督が原作を読んだ第一印象は、まず「絵が色っぽい」ということだった。また、「スカッとしたわかりやすい復讐劇ではなく、登場人物全員が、それぞれ抱えている人間の“業”のようなものまで丁寧に描かれている」と感じた。
濡れ場には、どう向き合ったのか。前出・浅野氏は、井樫監督に演出を依頼した理由について、「これまでの作品を見て、美しい映像を撮る人だなと。この人なら、密のもつ気品を損なうことなく、濡れ場も演出してくれるだろうと思った」と話すが、〈攻めるテレビ東京〉とはいえ、地上波で放送する上で、監督とプロデューサー陣で何度も協議を重ねたという。
「みんなでモニターを見ながら、動きの速さとか角度とか、『ここまではいいっすか!?』『これならOKすか?』『でも、これ以上減らすと…』みたいな、せめぎ合いを延々としてました」(井樫監督、以下「」内同)
密かな監督のこだわりは、「乳首」を露出させないこと。「好みの問題ですが、私、乳首が出ているシーンを見ると、もうそれにしか目がいかなくなるんです(笑)。本筋のストーリーから離れて、感情が脱線する。見ている人に、そういう一瞬を与えたくないんです」
かといって、「明らかに避けたなっていう映し方も萎える」。監督が大切にするのは、 “感情線”だ。見る側の感情を本線からズレさせないためには、演じている側の感情線も、全話俯瞰して見た時に繋がっていなくてはならない。そのなかで心がけたのは、「引き算の演出」だった。