潜る選挙
100人のうち1人、2人しかビラを取ってもらえない状態では、東京選挙区での当落ラインである50万票どころか、10万票の得票も見込めないのではないか、と訝しんだ。海老沢陣営全体が1日に配るビラの数は約3000枚。18日配っても、せいぜい6万枚にすぎない。1000万人を超える有権者がいる東京で、6万枚のビラを撒いたとしても大海の一滴にすぎないのではないか。
しかし、そうした表立った選挙活動だけを見ていては維新の集票力を見誤る、というのは関西学院大学教授の冨田宏治だ。
「通常の選挙活動以上に、維新は“潜る選挙”を得意としているのです。街頭演説と並行して、地方議員などに1日600件のようなノルマを課して、支持者や中小企業の経営者などに投票をお願いする電話をかける。大阪の選挙では、100人以上を潜る選挙に動員したこともあります。加えて、かなり精密な名簿を持っており、そうしたことが維新の選挙活動の原動力となっています」
ボランティアからでは、“潜る選挙”の実態はなかなか見えてこないが、一度、LINEにこんな投稿があった。投稿主は、元衆議院議員で現在、維新に所属する竹田光明だ。
「皆様、お疲れ様です、竹田です。衆議院議員時代の選挙区は東京25区でした。25区時代は、後援会もしっかりし、地域との関わりも強かったです。今、25区の名簿と、駒場東邦(出身高校)の名簿でひたすら電話しています。街宣には行けませんが、共に戦っているつもりです」
一日中、文字通り分刻みのスケジュールで動くので、ボランティア同士が言葉を交わす機会は少ないが、三軒茶屋駅から目黒駅に移動したとき、私に声をかけてくれたのは40代の男性。大阪維新の会が開く大阪維新政治塾の3期生だという。
「もう7年もボランティアをやっているんですよ。長すぎますよね」と自嘲気味に笑う。
「ボクも選挙に出たいんですけれど、なかなかタイミングが巡ってこないんですよね」
政治塾では何を勉強するのか、と私が訊けば、
「一番大事なことは維新のスピリットを学ぶことです。政治家が自分の身を切る改革を行なわないと、無駄のない行政を運営することはできないという点です。自分の私利私欲のためじゃなく、日本のために政治を行なうという志ですよ」