糖尿病のインスリン療法では自己注射以外に装着型インスリンポンプ(人工すい臓)が承認されているが、値段も高く、機器操作とメンテナンスが必要なため、国内ではあまり導入が進んでいない。そこでグルコース応答性ゲルによる人工すい臓デバイスの開発が始まった。グルコース濃度により、自律的にインスリンが放出されるもので、2028年の承認を目指している。
国内に約1000万人、予備軍を含め2000万人を数える糖尿病患者は、その大半が生活習慣病である2型糖尿病だ。
治療は1型糖尿病と重症2型糖尿病ではインスリン療法を実施。従来はインスリンの自己注射だけだったが、現在はポンプと持続型血糖値測定器を組み合わせた機械式人工すい臓が承認されている。
これは血糖値低下を機械が感知すると、腹部に貼ったリザーバーから体内にインスリンが補充される仕組みだ。ただ事前に使用訓練が必要で、食事前にも別途インスリン補充を行なうなど手間がかかるためか、普及していない。
東京医科歯科大学生体材料工学研究所の松元亮研究准教授に詳しく聞いた。
「私の専門は高分子ゲルで、これを利用した人工すい臓の研究を続けています。例えばゲル内にインスリン製剤を内包した皮下に埋めるデバイス(人工すい臓)を開発、動物実験では好結果でした。しかし、人間の皮下に埋めるのは大変なため、現在は皮膚に貼り、血糖値に応じてインスリンを放出する自律式の低侵襲なデバイスの開発を進めています」
人工すい臓デバイスに使用するのはフェニルボロン酸が主要な成分のグルコース(血中の血糖)応答性ゲルだ。
その仕組みはグルコース濃度が低いと、ゲルの表面にスキン層という脱水収縮層が形成され、内包のインスリンは出ず、逆に高いと、スキン層が消失して表面がプヨプヨになり、インスリンが放出される。しかもグルコース濃度の感知は一瞬で、自律的にインスリンの放出と停止が可能だ。フェニルボロン酸は、たんぱく質を含有せず、長時間安定が保てる特性もある。