――たしかに、そうした音によって再現性というよりも、ノスタルジー、郷愁が出ていました。
柴崎:今風になることを避けて作った一つ一つが音を出すことによって、その当時の雰囲気を出せればと思っていました。
それは、歩く音も同じです。そのころは革靴とかもあまりない時代。下駄だったり、草履だったり。草履も草鞋に近いものを履いていた人もいるでしょう。そういうのも含めて、音にする時は気をつけていました。
下駄も、素材が桐なのか樫なのかによって音って全く違いますから。女性用の下駄は桐下駄があったりするけども、男性用とは違います。しかも、今作は近代劇で七十年昔の話なので、その当時のことを覚えている人が大勢いるんですよね。だから、「違う音」だったら気づかれてしまいます。そういう面でも、ものすごく気を遣いますね。
【プロフィール】柴崎憲治(しばさき・けんじ)/1955年生まれ、埼玉県出身。アルカブース代表取締役。音響効果の重要性を映画界に認知させた立役者の一人。「日本一多忙な音効マン」の異名も。今年公開の担当作に『大怪獣のあとしまつ』『死刑にいたる病』『峠 最後のサムライ』など。
【聞き手・文】
春日太一(かすが・たいち)/1977年生まれ、東京都出身。映画史・時代劇研究家
※週刊ポスト2022年8月5・12日号