スポーツ

【独占密着・聖隷クリストファー】敗退後に指揮官が失意の告白「立派でしたね、選手たちは」

上村監督は「彼らには今年しかなかった」と語った

上村監督は「彼らにチャンスは今年しかなかった」と語った

 夏の甲子園の代表校の座に、聖隷クリストファー(静岡)は届かなかった。春のセンバツ選考では“まさかの落選”が大きな騒動となり、不可解な選考について十分な説明を拒んだ大人たちを見返すような勝ち上がりを見せていたが、準決勝で惜しくも敗退した。本誌・週刊ポストでセンバツ直前に選考委員や高野連会長の証言をスクープしたノンフィクションライターで『甲子園と令和の怪物』著者の柳川悠二氏が独占密着した。【全3回の第3回。第1回から読む

 * * *

 静岡市にある草薙球場から7月28日の昼過ぎに浜松市の聖隷グラウンドに戻ったナインは、長時間にわたってミーティングを行っていた。それが終わった15時過ぎ、私にとっても長い取材のケジメとなる、上村敏正監督へのインタビューが実現した。

 大会の開幕直前、上村監督は「選手からギラギラしたものが感じられない」と話し、それはつまり監督自身にギラつくものがないからだと説明していた。しかし、準々決勝までの5試合の戦いにおいて、選手は上村監督を甲子園に連れ行こうと目をギラつかせながら戦っていた。

「この子らは『能力がない』と一言で片付けられるような試合はしなかった。僕は浜松商業でも掛川西でも、甲子園に行かせてもらっていますからいいんです。でも彼らにとって、甲子園のチャンスは今年しかなかった。それをあんな理由で奪っておいて、僕が高校生なら許せないですし、その許せない気持ちが空回りして、夏の大会も良い結果が残せなかったんじゃないかなと思っていました。なのに彼らは準決勝まで頑張った。立派でしたね」

阿吽の呼吸がなかった…

 主将の弓達寛之が満足にプレーできたい状況下で、背番号「10」の今久留主倭をはじめ控え選手たちがカバーし合い、日替わりでヒーローが誕生した。大会中には体調不良でベンチを外れる選手も少なからず出ていた。選手を讃える一方で、拭いきれない悔恨が上村監督の中にもある。

「能力の高い選手を集めて勝ったチームが評価されるのが高校野球なら、『それはおかしいでしょ』と大声で言いたかった。でもね、最後まで勝って甲子園に行くチームというのは、僕が考えていること、あいつらが考えていることが阿吽の呼吸でわかるものなんです。それがこの夏はわからなかった。去年の秋よりもわからなかった」

 準決勝での一場面を上村監督は例に挙げた。

「(継続試合となって迎えた3回表1死二塁のという)ピンチの場面で、キャッチャーの河合(陸)はゴロを打たせるためにアウトコースにスライダーを要求すると思っていました。河合も胸に手を当てていたので、こちらの意図を理解していると私は思いました。ところが、今久留主の投げたボールはインコースのストレートでそれを弾き返された。ベンチに戻ってきた時に確認すると、『胸元にボール球を投げさせるつもりです』という意味のジェスチャーだったそうです。そういうちぐはぐさが随所に出てしまったのが準決勝でした」

 どうして指示が伝わらないのか。どうして指示が理解できないのか。そういうイライラを募らせていった。

「選手がミスをした時に、『仕方ない』と割り切れない自分がいました。ヒットの数は少ないけれども、ワンチャンスをものにするのがうちの野球です。ところが今日は、5回の1死満塁で山崎がゲッツーに倒れた。7回にせっかく相手投手にボールを放らせようと粘ったのに、8回はわずか4球で攻撃を終えてしまった。そして、9回も先頭打者を出しながら、ゲッツーでしたよね……。そりゃあ、負けたんですから、悔しいです。でも……」

関連キーワード

関連記事

トピックス

寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《木漏れ日のなかベビーカーを押す海外生活》眞子さん、苦渋の決断の背景に“寂しい思いをしている”小室圭さん母・佳代さんの親心
NEWSポストセブン
原付で日本一周に挑戦した勝村悠里さん
《横浜国立大学卒の24歳女子が原付で日本一周に挑戦》「今夜泊めてもらえませんか?」PR交渉で移動…新卒入社→わずか1年で退職して“SNS配信旅”を決意
NEWSポストセブン
米インフルエンサー兼ラッパーのリル・テイ(Xより)
金髪ベビーフェイスの米インフルエンサー(18)が“一糸まとわぬ姿”公開で3時間で約1億5000万円の収益〈9時から5時まで働く女性は敗北者〉〈リルは金持ち、お前は泣き虫〉
NEWSポストセブン
「第42回全国高校生の手話によるスピーチコンテスト」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
《ヘビロテする赤ワンピ》佳子さまファッションに「国産メーカーの売り上げに貢献しています」専門家が指摘
NEWSポストセブン
サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(時事通信フォト)
《総スカン》違法薬物疑惑で新浪剛史サントリー元会長が辞任 これまでの言動に容赦ない声「45歳定年制とか、労働者を苦しめる発言ばかり」「生活のあらゆるとこにでしゃばりまくっていた」
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《エプスタイン事件の“悪魔の館”内部写真が公開》「官能的な芸術品が壁にびっしり」「一室が歯科医院に改造されていた」10代少女らが被害に遭った異様な被害現場
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、インスタに投稿されたプライベート感の強い海水浴写真に注目集まる “いいね”は52万件以上 日赤での勤務をおろそかにすることなく公務に邁進
女性セブン
岐路に立たされている田久保眞紀・伊東市長(共同通信)
“田久保派”の元静岡県知事選候補者が証言する “あわや学歴詐称エピソード”「私も〈大卒〉と勝手に書かれた。それくらいアバウト」《伊東市長・学歴詐称疑惑》
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
「少女を島に引き入れ売春斡旋した」悪名高い“ロリータ・エクスプレス”にトランプ大統領は乗ったのか《エプスタイン事件の被害者らが「独自の顧客リスト」作成を宣言》
NEWSポストセブン
東京地裁
“史上最悪の少年犯罪”「女子高生コンクリート詰め事件」逮捕されたカズキ(仮名)が語った信じがたい凌辱行為の全容「女性は恐怖のあまり、殴られるままだった」
NEWSポストセブン
「高級老人ホーム」に入居したある70代・富裕層男性の末路とは…(写真/イメージマート)
【1500万円が戻ってこない…】「高級老人ホーム」に入居したある70代・富裕層男性の末路「経歴自慢をする人々に囲まれ、次第に疲弊して…」
NEWSポストセブン
”辞めるのやめた”宣言の裏にはある女性支援者の存在があった(共同通信)
「(市議会解散)あれは彼女のシナリオどおりです」伊東市“田久保市長派”の女性実業家が明かす田久保市長の“思惑”「市長に『いま辞めないで』と言ったのは私」
NEWSポストセブン