2016年9月、「働き方改革実現推進室」の看板をかける安倍晋三首相(右)と加藤勝信働き方改革担当相(当時)。「働き方改革実行計画」(2017年3月28日 働き方改革実現会議決定)から政府の副業・兼業の普及促進が始まった(時事通信フォト)
兼業作家や兼業クリエイターなどに見られる、いわゆる取材や資料、資材に経費が掛かった割に儲からなかったといった「経費倒れ」も相殺できなくなる(繰り返すがあくまで「申告」なので必ずしも認められるか断定はできないが)。これは昨今、兼業が多くなったとされる漫画家、小説家はもちろん新しいクリエイター業であるネット配信者にも当てはまるだろう。こうした「まずは兼業で」「いずれは専業に」「兼業でも夢を」という層にも厳しい改正案であり、ありとあらゆる副業者に影響を及ぼすだろう。今回の改正案では〈社会通念上事業と称するに至る程度で行っているか〉という一文が入っている。商業作家として知られていても金額の過多で兼業作家の場合「雑所得」判断もあり得る話で(反証は可能だが)、実際、今回の改正案では「300万円」という明確な金額が入っている。
10万円以上、手元に残るお金が減る
どのくらい税負担を感じることになるのか。令和2年分の民間給与実態統計調査(国税庁)によれば、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は433万円。たとえば、その平均給与を得ている人が、副業イラストレーターとして150万円の収入があった場合、これまでは事業所得として申告し、資料や取材にかけた20万円を必要経費としていたとしよう。税額は会社の雇用形態や契約、配偶者や子どもの有無、居住環境や地域、年齢などで複雑に上下するのであくまで推定値によるざっくりとした計算だが、本業の給与も含めた事業所得(青色)としての申告と雑所得扱いでは11~13万円前後の差が生じることになる。配送で100万円の副業収入(経費20万円)とするなら10万円前後。いずれにせよ、10万円以上の可処分所得、自分の手元に残るお金が減ることになる。2020年の現金10万円一律給付ではないが、「10万円あれば」と考えるなら決して少なくない金額だ。
また先のコメントにもあったが、副業所得が年間20万円超えてもあえて申告しない「無申告者」にはこの改正案は無力で、きちんと申告している納税者ほど割を食うことになる可能性がある。実際、ネットオークションの売買や背取り、転売などに多いと国税庁も指摘している無申告だが、申告しない人には法改正案が通っても申告していないのだから影響はない。影響があるのはまっとうな副業申告をしている人だけである。もちろん無申告は違法であり、脱税なのだが現実はごく少額を片っ端から税務調査できるわけもなく、これまで以上に「少額ならバレないし申告しないほうが得」と思われてしまう可能性もある。むしろ少額の副業者にこそ納税に対する恩恵を与えたほうが税の安定につながると思うのだが。
付け加えるが、サラリーマンの副業でも被雇用者としてのアルバイトやパート、派遣労働はこの範疇にない。あくまでサラリーマンである被雇用者が個人の事業として副業を営む場合に限る。これまた穿ち過ぎ、筆者の杞憂かもしれないが、国は非正規労働者の不足を補いたいがため、派遣労働者を増やしたいがために零細個人事業主や少額の副業サラリーマンを追い詰め、インボイスはもちろん今回の改正案を立て続けに繰り出しているのかと思わされる。
副業のメリットを並べ、推進してきたのは国なのに
そもそも政府は2019年4月から「働き方改革実行計画」として日本のサラリーマンに「金が無いなら勤務外に別の仕事もしてもっと働け」と副業を推進してきた。厚生労働省の『副業・兼業の促進に関するガイドライン』でもこう記している。