伝統の名門を指揮する大野氏(左)との最強タッグとなる(撮影・藤岡雅樹)

伝統の名門を指揮する大野氏(左)との最強タッグとなる

奇跡的なプレーが生まれるワケ

「代えた野手のところにボールは飛ぶ」は野球界の七不思議のひとつだが、そうした定説が頭をよぎったわけではないという。この決断に関しては、野手の交代を迷っていたところ、大会前に亡くなった澤田氏の父の声が聞こえてきた、ともまことしやかに語り継がれてきた。澤田氏は振り返る。

「直感やったんかな。何かしらの計算を働かせたわけでもない。土壇場の土壇場で(右翼手を交代する)決断ができた。打たれた瞬間はね……ベンチから見ていて打者の振りも良かったし、打球の角度からして『もう終わったな』と思ったんや。100人おったら、その100人全員が試合終了と思うぐらいの当たりやった。それをアウトにしたんやから、確かに“奇跡”なのかもわからんね」

 走者の星子が足からスライディングするのを、田中美一球審は一塁ファウルグラウンド側に立って確認し、捕手のミットが先にタッチするのをはっきりと目視した。

「球審の田中さんには、のちにお目にかかりました。打球が上がった瞬間、田中さんも『決まったな』と思ったそうです。ところが、『最後まできちんとジャッジしないといけない』と瞬時に思い直し、結果として最高の見やすい位置に立って、ジャッジを下したわけです。もし、(三塁ファウルグラウンド側になる)捕手の背後に立っていたら、決定的な瞬間を見逃し、セーフと判断してもおかしくなかったはず。『長い審判生活で最高のジャッジができました』とおっしゃっていただきました。

 もしあの時、星子君が足ではなく、頭からスライディングしとったら、セーフになったかもわからん。だからあれ以来、私は本塁突入が際どいタイミングの場合は、『頭からいけ』と選手を戒めてきました。もちろん、星子君を批判しとるわけやないよ。星子君も、当たりが大きかったから余裕をもって足から滑り込んだと思う」

 夏の選手権大会は今年で104回目を迎えたが、あの奇跡のバックホームは、おそらく100年後も色あせることなく語り継がれていく映像だろう。

「なるほど、そうかもしれんね。昭和28年(1953年)に松山商業が全国制覇した時の土佐(高知)との決勝では、凡フライが浜風に押し戻されてポテンヒットとなり、同点に追いついたことから『神風が吹いた』と言われた。昭和44年(1969年)夏の決勝・三沢(青森)戦は、延長18回引き分け再試合となった。そして、奇跡のバックホーム。なぜ松山商業が優勝する時は伝説の試合になるのか──日本一になった日の宿舎で新聞記者に質問されました」

 そんな質問をされても、一晩では語り尽くせないだろう──一瞬、澤田氏はそう思ったという。だが、自然と答えが口をついて出た。

「松山商業には私立のように能力の高い選手が集まるわけではない。なので、『伝統的に、入部してくれた選手を叩き上げで鍛え、人間力だけでチームを編成するような学校だから、奇跡的なプレーが生まれのかもしれません』と答えた。なまじっか、的外れではないかもしれません」

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