ライフ

「張作霖爆殺事件」謀略の直前集合写真【前編】15年戦争の契機となった歴史の真相

事件直前に関係者が揃った写真。後列左から2番目が河本大作、その右後ろが東宮鐵男。前列にいる中国人の苦力はこの後、犯人偽装のため殺された

事件直前に関係者が揃った写真。後列左から2番目が河本大作、その右後ろが東宮鐵男。前列にいる中国人の苦力はこの後、犯人偽装のため殺された

 ロシアによるウクライナ侵攻は、後戻りできない戦争の恐怖を現代に甦らせた。今から100年近く前、日本もまた自ら悲劇に身を投じていった。その分水嶺となった事件の真相に、歴史ノンフィクションを上梓したジャーナリスト・牧久氏が迫った。【前後編の前編】

 * * *
 今年もまた8月15日がやってくる。先の戦争を振り返った裕仁天皇の言葉を記録した『昭和天皇独白録』には、こんな後悔の言葉が採録されている。

「国民的憤慨を背景として一度、軍が立ち上がったときに、これを抑えることは容易な業ではない」

 1931年(昭和6年)、満州事変が勃発。遼東半島の旅順に司令部を置く関東軍の暴走をメディアも国民も熱狂的に支持した。だが、独白録は、満州事変から遡ること3年前の「張作霖爆殺事件」こそが破滅への「15年戦争」の始まりだったのではないかと取り上げている。私は今夏『転生 満州国皇帝・愛新覚羅家と天皇家の昭和』(小学館刊)という本を書いたが、その中でこの爆殺事件に残された謎について触れた。

 私的な軍事集団である「軍閥」が各地に割拠し中国は乱れに乱れていたが、国民党軍の蒋介石は、中国統一を目指し「北伐」を開始する。1928年(昭和3年)6月4日朝、北伐軍が北京に迫ってくると、大軍閥「奉天派」を率いる張作霖は北京脱出を決意、京奉線の特別列車で地元の奉天(現・瀋陽)に向かう。その特別列車が、満鉄本線と交差する奉天駅近くの皇姑屯で大爆発を起こした。

 張作霖は即死に近い状態で奉天の自邸に担ぎ込まれたが、午前10時過ぎには死亡する。奉天軍は、張作霖は軽傷だと発表し、大軍を率いて華北にいた長男の張学良が戻るまで、その死を伏せた。

 事件は当時、「満洲某重大事件」と呼ばれ、事件の詳細は長年、秘匿されてきた。封印が解かれ事件の一端が明らかになるのは、戦後の1947年(昭和22年)2月のことである。日本の“戦争犯罪”を裁く極東軍事裁判(東京裁判)に検察側証人として元陸軍少将・田中隆吉が出廷、尋問にこう答えた。

「関東軍高級参謀の河本大作大佐が、奉天独立守備隊中隊長の東宮鐵男(とうみや・かねお)大尉ら将校の何人かを引き連れて、奉天の西の鉄道交差点にかかる橋に爆弾を仕掛け、張作霖を殺害した。張作霖の乗った特別列車が鉄橋の下を通過した瞬間に爆弾に点火された」

 この田中証言で、事件の犯人が河本や東宮であることが明らかになったが、ではなぜ彼らが張作霖暗殺を実行したのかという「動機」にはまったく触れておらず、大きな謎として残った。河本や東宮はなぜ、これほど大掛かりな爆殺事件を起こしたのか──その動機が解明されない限り、事件の真相が明らかになったと言うことはできないだろう。

関連キーワード

関連記事

トピックス

寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《ベビー服は男の子のものでは?》眞子さん、夫・小室圭さんと貫く“極秘育児”  母・佳代さんの「ラブコール」も届かず…帰国が実現しない可能性も
NEWSポストセブン
吉沢亮演じる喜久雄と横浜流星演じる俊介が剣幕な表情で向かい合うシーンも…(インスタグラムより)
“憑依型俳優”吉沢亮主演の映画『国宝』が大ヒット、噂される新たな「オファー」とは《乗り越えた泥酔事件》
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“半日で1000人以上と関係を持った”美女インフルエンサー(26)がイギリスの公共放送で番組出演「口をすぼめて、吸う」過激ビジュアル
NEWSポストセブン
映画『国宝』で梨園の妻を演じた寺島しのぶ(52)
《無言の再投稿》寺島しのぶ、SNSで2回シェアした「画像」に込められた歌舞伎役者である息子・尾上眞秀への“覚悟”
NEWSポストセブン
元横綱・白鵬の宮城野親方に相撲協会はどう動くか(八角理事長/時事通信フォト)
八角理事長体制の相撲協会に「70歳定年制」導入の動き 年寄名跡は「105」しかないため人件費増にはならない特殊事情 一方で現役力士が協会に残ることが困難になる懸念も
NEWSポストセブン
「池田温泉旅館 たち川」の部屋風呂に「温泉偽装疑惑」。左はHPより(現在は削除済み)、右は従業員提供
「水道水にカップ5杯の重曹を入れてグルグル…」岐阜県・池田温泉「高級旅館」の部屋風呂に“温泉偽装”疑惑 ヌルヌルと評判のお湯の真実は…“夜逃げ”オーナーは直撃に「誰からのリークなの? それ」
NEWSポストセブン
これまでジャズ歌手などとしても活動してきた参政党・さや氏(写真/共同通信社)
参政党・さや氏、歌手時代のトラブル証言 ジャズバーのママが「カチンときて縁を切っちゃいました」、さや氏は「そうした事実はない」…真っ向食い違う言い分
週刊ポスト
もうすぐ双子のママになる。Numero.jpより。
Photos:Mika Ninagawa
中川翔子3年にわたる不妊治療と2度の流産を経験 。 双子の男の子のママになる妊婦姿を披露して話題に
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《女優・趣里の現在》パートナー・三山凌輝のトラブルで「活動セーブ」も…突破口となる“初の父娘共演”映画は来年公開へ
NEWSポストセブン
岐阜の「池田温泉旅館 たち川」が突然の閉鎖、事業者が夜逃げした(左は旅館のInstagramより)
【スクープ】岐阜県の名所・池田温泉の人気旅館が突然の閉鎖 町が運営委託した事業者が“夜逃げ”していた! 町長からは228万円の督促状、従業員が告発する「オーナーの計画」 給料も未払いに
NEWSポストセブン
中村七之助の熱愛が発覚
《元人気芸妓とゴールイン》中村七之助、“結婚しない”宣言のルーツに「ケンカで肋骨にヒビ」「1日に何度もキス」全力で愛し合う両親の姿
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【スクープ】大谷翔平「25億円ハワイ別荘」HPから本人が消えた! 今年夏完成予定の工期は大幅な遅れ…今年1月には「真美子さん写真流出騒動」も
NEWSポストセブン