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瀬古利彦、恩師・中村清監督との衝撃の出会い「砂を掴み、むしゃむしゃと食べ始めた」

福岡国際マラソンでは早大、エスビー時代を通じて優勝4度(写真は1983年/時事通信フォト)

福岡国際マラソンでは早大、エスビー時代を通じて優勝4度(写真は1983年/時事通信フォト)

 世界で戦えるマラソン選手の育成──そのことに心血を注いだのが、早稲田大学競走部の監督などを歴任した中村清(1985年没、享年71)だ。エスビー食品陸上部監督時代には、有望選手が次々と“中村学校”の門を叩いた。その指導法には、「常軌を逸している」と言われるほどの凄みがあった。(文中敬称略)【全3回の第1回】

 * * *
 早大競走部、エスビー陸上部で中村清の指導を受け、マラソン15戦10勝という戦績をあげたのが、瀬古利彦(現・日本陸連副会長)だ。中村との出会いについて、瀬古はこう振り返る。

「忘れもしません。初めてお会いしたのは大学入学前の1976年3月25日。千葉・館山での新入生も参加する合宿でした。当時はまだ、OBの一人として来られていました。第一印象? とても饒舌な方だと思いましたよ。ずっとしゃべっていましたからね(笑)」

 早大は同年1月の箱根駅伝出場を逃し、低迷期にあった。復活のための切り札として招聘されたのが、中村だった。

 瀬古が語る初対面のエピソードは鮮烈だ。

「話の途中で“俺はお前たちに謝りたい”と言い出します。“(早大が)低迷しているのはお前たちのせいじゃない。OBがちゃんと面倒を見ていないからだ。俺が代表して謝る”と言って、自分の頬を思い切り叩き始めるんです。手加減なしで叩きながら“これで許してくれるか”と……」

 さらに、海岸の砂浜で話していた中村は学生たちに向かって「この砂を食えば勝てる、世界一になれると言われたら食えるか?」と問うたという。

「こちらが何かを返す間もなく、“俺だったら食べるよ。勝てるなら何でもする”と言って、本当に足元の砂を掴んでむしゃむしゃと食べてみせたんです」(瀬古)

 瀬古は四日市工業高校時代、インターハイや国体の1500mなどで優勝し、超高校級の中距離ランナーとして知られていた。ただ、スポーツ推薦がなかったこともあり、早大入学までに1年間の浪人生活を過ごしていた。

「浪人中に10キロも太ってしまい自暴自棄にもなっていましたが、命がけで指導してくれる印象が鮮烈で、言うことを聞いてみようと思いましたね。周囲には奇異に映ったかもしれませんが、私の直感が“この人だ”と告げていました」(瀬古)

 1913年生まれの中村は早大卒業後、1936年ベルリン五輪に1500m代表として出場。25歳で召集されると、陸軍では憲兵隊長を務めた。1976年に早大陸上部の監督に復帰後も、“憲兵隊長の顔”をのぞかせたという。

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