五輪招致の裏金問題
一方、森と高橋はレジャー業者の息子の電通への就職が縁となり、ますます濃密な関係を築いていく。実は、森は今回東京地検の捜査で焦点になっているAOKIとも奇縁がある。先の森後援会幹部が明かした。
「AOKIグループは創業者の実弟が高橋さんと親しく、森先生の自宅にスーツの仕立て職人を連れて日参していたそうです。森先生のところには銀座の『壹番館』をはじめ老舗の洋服屋の仕立券がたくさん贈られますが、AOKIの仕立券は珍しい。でも森先生はけっこうAOKIのことを気に入っています」
カラオケ好きの森は、ギタリストのアントニオ古賀を師と仰いで歌の練習をしている。『アニヴェルセル』と称した結婚式場をチェーン展開しているAOKIは、プライベートサロンも運営しており、森はそこがお気に入りだったと後援会幹部がこう続ける。
「原宿のサロンにご一緒しましたけど、料理もまずまず。森先生はアントニオ古賀の歌ではなく、高倉健の『唐獅子牡丹』なんかを歌っていました。人目につかないので先生もリラックスできるんでしょうね」
もとより、五輪組織委員会のトップがメインのスポンサー企業と親しいというだけで罪になるわけではない。東京地検にとって高橋の場合は、五輪の組織委員会の理事というみなし公務員がスポンサー選びの見返りに業者から金銭を受け取っていたのではないか、という賄賂性の立証が、捜査の第一関門となる。したがって捜査のハードルはけっこう高い。半面、AOKI側にとって、高橋だけでなく、五輪最大の実力者であり、中心の森喜朗に接近できれば、それに越したことはない。
高橋は2009年に専務から顧問に退いた後、2011年に電通から離れた。その後は、スポーツ事業局やマーケティング局など古巣の後輩を使いながら、五輪ビジネスに奔走してきたといわれる。
その高橋人脈は多岐にわたる。日本オリンピック協会(JOC)前会長の竹田恆和とは慶應大の同窓であり、東京五輪のさまざまな場面で接点をもってきた。そもそも東京五輪にケチがついた始まりは、2013年の五輪招致段階における国際オリンピック委員会(IOC)元委員の親族への裏金問題だった。JOCとともにその国際ロビー活動を主導してきたのが高橋であり、そこに政治的なきな臭さが漂う。
さらに高橋をめぐっては、ここへ来て、サッカーJリーグの数千億円の放映権料の取引への関与も浮上している。五輪の闇の解明は端緒についたばかりだ。
【プロフィール】
森功(もり・いさお)/ノンフィクション作家。1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経て2003年よりフリーに。2018年、『悪だくみ―「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。近著に『菅義偉の正体』『墜落「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』など。
※週刊ポスト2022年9月2日号