確認の形骸化は事故を招く(イメージ)

確認の形骸化は事故を招く(イメージ)

「デイサービスの高齢者送迎とかね、あぶなっかしいドライバーいますね。それでも運転しなければならないのでしょうが、やはり怖いと思います」

 もちろん、彼は決して上から目線で言っているわけではない。どんな仕事もそうだが、プロから見れば素人のそれは本当に怖いのだ。現場で普段は優しいはずの先輩が本気で怒る場面は、本当に危険で怖いからこそ本気になる。足場に資材を置くな、クレーンの吊り荷の下に入るな、フォークのマストとヘッドガードの間から身を乗り出すな――さまざまなこうした現場の危険行為と同様に、プロから見た素人運転や初心者運転はときとして「危険」であり「怖い」ものなのだろう。

子供は置き去りにされても「置き去り」と思わなかったりします

「個人的には2種免を取れとまでは言いませんが、もっとちゃんとした講習の機会を設けてあげて欲しいです」

 自治体によっては幼稚園や保育園、福祉施設などの送迎ドライバーを対象とした講習会を開いているところもあるが、罰則を伴うような法律上の義務はない。実際、別の送迎ドライバーの話では「最初は怖かったです。未経験でしたから」とのことで、いきなり仕事で他所様の子供を大勢運ばされるよりは、何らかの講習会が義務づけられているほうが安心かもしれない。

「怖いと思う人はむしろ見込みあります。一番怖いのは『俺は無事故だったから』『俺は大きい車も乗ってきた』という過信ですから」

 これは運転に限らず、すべての仕事に言えることだろう。73歳の理事長兼園長は父親の代から園を経営し、少ないながらも送迎経験はあっただろう。そもそも彼自身、園の経営そのものは長いはずだった。

「とにかく『人が残っていないか』それを確認するだけなんですよ。数えることも大事ですが目視も大事、むしろ、それがもっとも有効なんです」

 今回は園の職員も添乗していた。また、園児ごとに専用コードがある登降園管理アプリを利用して出欠確認をしていた。にもかかわらず、園の運用がずさんだったことが分かっている。それでもトリプルチェックだった。問題はあるか。

「2重、3重にやったって同じ人間がやることですよ。むしろ『運転手が大丈夫と言っている』『添乗員が大丈夫と言っている』『アプリも問題なしと言っている』で送り送りになって、実際に子供が取り残されていたわけでしょう。複数人で『人数は問題ない』って同じ方向でチェックしても絶対、とはならないでしょう。むしろトリプルチェックはもちろん『運転手は人数確認』『添乗員は降車後の車内確認』『園が改めて相互確認』と役目も明確にしたほうが有効に思いますよ」
 
 なるほど、トリプルチェックとともにクロスチェックということか。確かに多くの現場ではごく普通に取り入れられている。実際、京都大学医学部附属病院の研究によればトリプルチェックとシングルチェックとでエラー検出率はそれほど変わらないという結果がある。仕事や現場にもよりけりだろうが、そればかりに頼ると事故を誘発しかねない。今回は運転手である理事長はもちろん、添乗した女性職員も園児6人を確認しないままアプリに「登園」と入力している。そして園も「いないからお休み」と思っていたとされる。

 別件で話を聞いた幼稚園の先生にも、今回の件を伺った。なぜ子供は置き去りになってしまうのかという問い掛けに興味深い回答を得た。

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