「底辺」の場合、入居者が多いと定期検診が2週間に1度になる施設もあるという。介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんが続ける。
「基本的に内科医とは提携しているところがほとんどですが、整形外科や精神科などとはしていないケースもある。骨折などのけが対応や認知症への対応などにも影響するため、提携先を事前にチェックするのは重要です。また、高級施設では看護師常駐を売りにするところもある。とはいえ、夜間は不在などの場合もあるため、入居前によく確認しましょう」
年齢を重ねるごとに、生活の彩りとしての比重を高めていく食事についてはどうか。東京郊外の最高級施設に住む大川緑さん(仮名・84才)がうれしそうに入居当初のことを思い出す。
「キッチンはあるものの、引っ越しに疲れて料理を作る気がせず、施設内のダイニングを利用しました。すると、懐石料理のようにお品書きが出され、食べるペースに合わせて一品ずつ運ばれてきた。ご飯が炊き立ての土鍋のまま運ばれたときは感動しました。流動食やきざみ食があるのはもちろん、食べにくい野菜やフルーツはその場でスムージーや生ジュースにしてくれる。しかも24時間営業していて、本当に便利です」
ケアタウン総合研究所代表の高室成幸さんが話す。
「最高級施設では食材ごとに産地にこだわり、明記したりするところもあります。見落としがちなのは食器。やはりプラスチック製では味気ない。きちんと陶器のお皿に見栄えよく盛り付けることで、心も豊かになり食欲も増します」
一方、「底辺」はというと、少し残念だ。
「ひとことでいえばレトルト。セントラルキッチンと呼ばれる工場で作られたものを、施設で温めるだけ。簡単にいえば機内食みたいなイメージです。おやつも出ないところがあります」(佐藤さん)
亀田美智子さん(仮名・48才)は、80才の父と75才の母が入居するホームの食事がワンパターンで困っている。朝食はトーストと目玉焼き、サラダの洋食と、ご飯とみそ汁、納豆、焼き魚、冷ややっこの和食が1日交代で提供されるだけなのだ。昼はカレーかうどん、そばのみ。さらに、夕方5時で調理師が帰るため、夕飯は冷めた仕出し弁当。介護食の人は毎日ほぼ同じメニュー、しかも介護食は通常食をほぼ丸ごとミキサーにかけるだけのものだという。
「ご飯もおかずも全部ごちゃまぜで、見た目もにおいもひどい。介護食に移行した途端、食欲がなくなって早死にするという噂がありますが、それも頷けます」(亀田さん)
栄養が摂れなければ健康を維持することも難しくなる。
「もちろん“底辺”であっても最低限の栄養は保証されていますが、高齢になると食欲も減り、食べる時間もかかる。低栄養にも陥りやすくなる。人手が足りなければ、最後までゆっくり食べさせることもできない。1人のスタッフが何人もの利用者を担当しており、時間によって食事時間が切られてしまうこともあります」(高室さん)
食事が摂れず低栄養になれば体重減少や筋力低下、疲れやすさなどが表れる「フレイル」という状態につながりやすく、要介護になる可能性が高まる。太田さんの指摘。
「食事は、体が弱ってからも残る楽しみの1つ。減塩料理やきざみ食、ムースなどでもきちんとした器でオシャレに盛り付けてくれたりすると食べる方の気持ちは断然違う」