KADOKAWA創業家の角川といえば、ワンマン経営者として知られる。元専務の芳原や元「2021年室」室長の馬庭の逮捕の前日、こう記者会見した。
「現場のやったことでやりとりは知らないが、(贈賄は)ありえない」
まるで事件にノータッチであるかのように話していた。が、それこそそんなことはありえない。それを如実に物語る場面が、2017年5月に東京・赤坂の高級料亭で開かれた関係者の密会である。
会合は組織委員会の元理事高橋が呼びかけた。判明しているだけで参加者は7人いる。高橋自身をはじめ、出版社はKADOKAWAの角川と逮捕された元専務の芳原、講談社の野間、電通側ではコモンズ2の深見、高橋の後輩にあたる元電通スポーツ局長、そして元首相の森喜朗である。
このときの会合は、五輪汚職を語るうえで極めて重要だといえる。元電通スポーツ局長は高橋と同等のスポーツビジネス界における有名人だ。東京五輪招致で暗躍した。
たとえば東京五輪をめぐっては、日本オリンピック委員会(JOC)による元国際陸上競技連盟(IAAF)に対する招致の裏工作疑惑も浮上した。JOCが2013年7月と10月の2度にわたり、国際陸連のマーケティングコンサルタントだったパパ・マッサタ・ディアクに230万ドル(約2億5000万円)を渡していた事実が判明。パパ・マッサタは陸連会長のラミーヌ・ディアクの息子である。
当時のJOC会長・竹田恒和が国会に呼ばれ、「コンサル料」だと言い逃れた。このとき高橋とともに裏工作に奔走したキーパーソンが、この元スポーツ局長なのである。陸連会長のディアクと電通が交わした契約書には、元スポーツ局長が署名していた事実まで発覚している。
2017年の赤坂・料亭の密会は東京五輪における重要人物が集った。2016年には高橋の考案したトータル5億円のスポンサー料スキームができ、それも組織委員会に提出されていた。組織委員会会長の森喜朗はまさに赤坂会合のメインゲストである。
森の反対で講談社が五輪のスポンサーを辞退したかのような報道もあったが、それは事実と異なる。高橋が講談社嫌いの森と社長の野間を引き合わせ、五輪に協力させようとした。それが密会のテーマだ。
「オタクの雑誌でずいぶん酷いことを書かれてきたからな」
そう嫌味を言う森に対し、野間は苦笑いして受け流したという。その甲斐あってか、講談社もいったんKADOKAWAとの共同スポンサーについて検討をするようになったという。